エピソード13:賢王への道
同盟国エタン魔導国を目指し、旅立ったナバールとオーウェン。
道中、安全だと思われていた街道ですが……。
王都の城門を後にし、私は東へと続く街道を馬で進んでいた。
隣には騎士団長オーウェン。
父を失った悲しみや、急な王位継承の重圧から意識を逸らすように、私はあえて普段通りの調子で話しかけた。
「エタン魔導国生までは、およそ四百キロか。馬でゆっくり進むとして、五日はかかる計算でいいか、オーウェン?」
「はい、ナバール様。一日八十キロ進むとして、順調なら五日です。しかし、王自らがこんな時期に国を空けるのは、正直、不安ですよ」
「それは分かっている。だが、母上からの密書を届けるのが最優先だ。それに、国政は母上とエドルに任せてきた。二人がいれば、当面は大丈夫だろう」
私は、背中に背負った王家の剣の重さを感じながら、冷静に状況を分析した。
「ヴェルガーも父上との戦いで手傷を負っているし、すぐには来ないだろう。それに、私たちのドラグーン王国には、元来、西の『死の都』と、北の『霊峰スインウィッシュ』という天然の障壁がある。魔族が大規模に攻めてくることは難しいはずだ」
オーウェンは私の言葉に深く頷いた。
「国防も奇襲を受けて敗北しましたが、我々の基本は、年寄りも女も皆が戦士です。混乱さえなければ魔族に負けない。副団長サムソンに復興と防衛のすべてを指示してきましたので、ご安心を」
オーウェンの言葉はいつものように確信に満ちており、私は親友の言葉に安堵を覚えた。
旅の一日目。昼を過ぎ、深い森の道中へと差し掛かった頃。
私は周囲の森を見やりながら問いかけた。
「街道の治安はどうだ? 魔族の襲撃があった後だ、グレイファングのような魔物が出る可能性は?」
オーウェンは自信を持って答えた。
「それはまずないでしょう。この街道は王都とエタン魔導国を結ぶ主要路であり、過去の襲撃で魔物が内陸深くに入り込んだ例はありません。騎士団の掃討も終えており、道中は安全かと。警戒は怠りませんが、ご安心を」
オーウェンがそう言い切った直後。私は、森を指差した。
「じゃあオーウェン、あれは何だ?」
オーウェンは一瞬顔を強張らせ、私が指差す先を凝視した。
「……グレイファングの群れ……ですかね……」
十数匹の狼型の魔物が群れを成し、血走った目で街道を塞いでいる。
オーウェンは、先ほどの「まずない」という自身の発言を、静かに訂正される形となった。
私は王家の剣の柄に手をやり、笑みを消した。
「まあ、やるしかないけどな。これは、普通のことではないんだな?」
「グレイファングがこれほど群れるのは前例がありません。ナバール様、どうやら霊峰スインウィッシュの方角から、濃すぎる『気』が流れ出しているようです。この魔物たちを狂わせている。ヴェルガーが何か、霊峰の封印に関わる動きをしているのかもしれません」
オーウェンは私の成長を促すため、敢えて手を出さず、私に目線を送った。
私は馬を降り、王家の剣を抜いた。その剣は私の体には大きすぎ、扱いづらい。
(王家の剣は重すぎる。素早い魔物には、この白竜の爪で対処する!)
私が強く意識を集中させると、守護竜セトから授かった『白竜の爪』が、一瞬にして光の粒子となり、私の左手に形成された。
右手に王家の剣、左手に収納自在の白竜の爪を構え、二刀流の構えをとる。
白竜の爪は、まるで自分の体の一部のように軽やかで、私が求めていた「精密な制御」を可能にする。
魔物たちの群れが、血に飢えた咆哮を上げ、私に向かって突進してきた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
王家の剣の重み、そして自らの意志で形を成す白竜の爪。
二つの武器を構えたナバールの、本格的な戦闘シーンの幕開けです。
異変の兆しを見せる森の中で、彼は何を見出すのか。
次回、ナバールの真価が問われます。




