エピソード10:王の眠りと母の愛
父アラン王を、自らの力で生み出した氷の棺へと安置したナバール。
静寂に包まれた聖陵で、彼は最長老エドルからある言葉を掛けられます。
王城の中央塔の直下。
歴代の王たちが儀式を執り行った『始祖の祭殿』が、急遽、父の安息の地『永遠の聖陵』へと改められた。
ここは、天井の魔導石を通して柔らかな光が常に降り注ぎ、清らかで厳かな空気に満たされている。
私は、自らの竜人化の力で作り出した父を包む氷の棺を、最長老エドルの指導のもと、祭殿の最奥にある祭壇に安置した。
クリスタルのように透き通った氷の中、父は安らかな表情で眠っている。
その傷ついた身体は、私の氷の魔力によって時間から切り離され、永遠にその尊厳を保っていた。
「陛下。あなたは、その尊い眠りをもって、この国の精神的な『盾』となられました」
最長老のエドル爺さんは、私に向き直った。
「ナバール様。王家の魔力と、あなたの混血の力によって成就したこの『氷の棺』は、神聖な奇跡です」
「これは、あなたが世界を繋ぐ鎖となる、何よりの証。アラン王の盛大な国葬は、あなたが平和を取り戻し、玉座に戻られたその日に、改めて執り行います。それまで、陛下はこの聖陵で、我々の戦いを見守ってくださるでしょう」
私は、氷の棺を前に深く一礼した。
数時間後。私は意識を回復した母、アイリス王妃の寝室にいた。
「母上……ご無事なんですね」
「ええ、ナバール。心配かけてごめんね」
いつもの溺愛ぶりとは違い、母の表情は、憔悴しながらも、どこか凛としていた。
「ナバール、あなたは本当にアランにそっくりね。あの人は、最期までこの王国の王でした。そして、私の愛する夫でした。私が生命力を使い果たそうと、あの人の最期を看取れて、本当に、心から幸せだったわ」
母は優しく微笑んだ。
「お父様は、ナバールが立派な王になると信じていたわ。そして、この私を愛してくれたように、ナバールを、私たちの子を、心から愛していた。あなたは、その愛の結晶なのよ。その愛は、誰にも奪えないわ」
私は、今は亡き父の面影と、母の憔悴した姿を前に、悲しみを深く胸に秘め、祠での出来事を報告した。
セトから授かった、混血の力を調律する短剣『白竜の爪』のこと。そして「世界を繋ぐ鎖」としての使命。
「だから、私は立ち上がります。父上の残したこの国を復興させ、そして……暴走したヴェルガー叔父上の行いを、必ず止めます。憎しみで憎しみを返せば、この世界は永遠の混沌に陥る。それが父上の教えてくれたことです」
私の言葉に、アイリス王妃は静かに頷いた。
「よく言ったわ、ナバール」
母は、まるで初めて見るような、厳しくも慈愛に満ちた王妃の顔で、ベッドの傍らに飾られていた、父が最期に携えた王家の剣に手を伸ばした。
「この剣は、アラン王の魂そのもの。ナバール、私はあなたが心配でたまらない、愛する母親よ。でも、今この瞬間、私はあなたを送り出す王妃でもある」
母は剣を抜き、私へ差し出した。その手は微動だにしない。
「王家の剣を、あなたに託します。あなたの進む道は、楽ではない。茨の道よ。けれど、その剣と、あなたの胸のペンダントが、王としての、そして私の愛する息子の道を照らすでしょう」
「母上……」
私は王家の剣を受け取り、柄を強く握りしめた。
受け継がれてきた父の思いが、その剣を通して私の胸に流れ込んでくる。
剣に込められた父の魂は、私の決意を確固たるものにした。
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母から託された王家の剣。その重みは、そのまま国を背負う覚悟の重みでもありました。
悲しみを胸に秘め、若き王子はいよいよ民の前へと進み出ます。




