2話 ハッピーエンド
「呪いを解け。”魔眼のエリー”」
「………そう睨まないでよ、ダーリン。意味ないからさ。」
目に入ったのは武骨な大男と我が相棒トップの姿。戦闘と治療は終わらせてくれたらしい。血痕と戦闘の跡と巻かれた包帯がそれを物語る。二人が私のために争わなくて幸いだ。
「私たちの愛が色あせることはないわ。安心した?」
「ふざけているのか……。解かないのならここで──」
「殺せないでしょ。強がらないで、私は逃げないよ。」
身体を起こして愛狼を撫でる。長話になるだろうから嫉妬しないように、寂しくないように優しく優しく。
「単刀直入に言うと、私にも解けない。意地悪したいんじゃないのよ。」
「………なぜこんな呪いを?」
「死にたくなかったから。麻薬売ってるクズを愛したいわけないだろ。」
トップに抱き着いて、吸う。癒されて、逃げなきゃいけないとか、これからどうするかとかの悩みが消え失せてしまう。
「これから、どうするんだ………?」
「まずは逃げなきゃね。歩きながら話そう。」
歩きながらとは言ったが、歩く気はさらさらない。相棒の大きな背中にうつ伏せになり手足をだらりと垂らす。トップは上機嫌。
「嫉妬しているんでしょ?撫でてもいいよ。」
「……真面目に話さないか?」
「真面目だよ。意地を張っていたら耐えられないよ?」
彼の手が恐る恐る伸びる。トップが唸っているが、頭を撫でてなだめる。あぁ幸せだ。この大男も幸せだろう。顔には出さないが分かる。その辛さも。
「撫でながら聞いて。この呪いは絶対。私たちの幸せは愛し合うことになってしまった。」
「本気か?」
「分かるだろ。私達今めっちゃ幸せだ。」
「……………。」
「ハッピーエンドの条件を伝えるよ。この呪いを解く方法は三つある。」
「一つ目は人類の英知、魔法に頼ること。」
「じゃあ魔道国に行くのか?」
「いや、追手が面倒だから後回しかな。」
「……二つ目は。」
「どっかの神に祈る。けどこれも無理。」
「なぜだ。」
「神に祈れるほど清らかじゃないでしょ。麻薬の売買やってたあんたと、ヤバい依頼を受けてきた私、この子も大量に食い殺している。」
「狼は解呪に関係ないだろ。」
「いいや?旅の目的はこの子と私の呪いを解くことだったのよ?」
「……狼に色目を使ったのか。」
「食い殺されそうだったからね……。三つ目が本命。エリクサーを買うこと。」
「………それで呪いを解くのがハッピーエンドか?」
「惜しいかな。80点。」
これから旅をするのだから、目標を統一するのは大切だ。黒い目を見ながら話す。
「呪いを解けるようにすることがハッピーエンドだよ。」
「何が違うんだ。」
「この呪いに従えば、間違いなく幸せになれる。」
「大切なのは、呪いをいつでも解けるという安心だよ。」
「分かりやすく説明を頼む。」
「私が麻薬が嫌いな理由はね、止められないからだ。」
「もう止められないから、ズルズル続けてしまう。」
「私は前向きに生きていたい。止められないからなんてネガティブな理由と共に生きたくはない。」
「……それで?」
「無理に呪いを解く必要はない。けど、解けないからってのはモヤモヤする。」
「呪いを解いた瞬間がハッピーエンドじゃない。道を選べるようになった時がハッピーエンドだ。」
「俺は解きたいんだが……」
「その時は従うよ。先に私の意見を話しておきたかっただけ。」
そろそろ追手が本格的に来る頃だろう。トップの背から降りて話に蹴りを付けよう。
「私たちはとにかく金を稼ぐ。そしてエリクサーを手に入れる。分かった?」
「あぁ。」
麻薬を売ってた傭兵。汚い仕事をやってた私。魔界で恐れられた狼。カスどもがハッピーエンドを目指して金を稼ぐ。なかなか楽しい旅が始まりそうだ。
「じゃあ円陣でも組んじゃう?これからの旅に!」
「………まだ説明が足りないんじゃないか?」
…………あと一つだけ語っていなかったことがあった。手元のナイフを取り出して彼に見せる。
「どうも!九大俗魔が一人!エリーちゃんに封印された悪魔のディドだよ~。」
「こいつもクズじゃねぇか………。本当に楽しい旅になりそうだな。」
……今気が付いたが、トップが何かを咀嚼している。だから静かだったのか。
ダーリンが気づく前に飲み込むように合図する。私は何も見ていない。
…………………………最高の旅が今始まった!




