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DVD!

作者: 神崎玄

 以下に述べるのは、大阪日本橋に居住していて見聞したことの記録である。その中には、嘘やデマ、誤解も入っているかもしれない。が、日本橋昔語りとしてそのまま記録しておく。


 いつ頃からだったろうか、堺筋沿いに外国人が違法コピーのDVDを売るワゴンを出し始めたのは。

 報道された情報では、彼らはイスラエルの若者で、世界中でこのような違法な商売をしつつ情報収集をしているのだという。そのワゴンでは、不法コピーされた普通の映画が売られていた。

 これには映画産業が怒った。とりわけハリウッドが。

 警察が本腰を入れて摘発を始めると、DVDのワゴンはすっかり姿を消した。

 それに代わって現れたのが、雑居ビルの中にある裏ビデオ屋だった。

 ビデオといってもすでに時代はDVDへと移り変わりつつあり、ビデオテープはすたれかけていた。

 雑居ビルの入り口に「DVD」あるいは「盤面印刷」などと書いた小さな看板が出ている。

 その部屋をたずねていくと、壁には何万本ものDVDパッケージが並んでいる。その全てが無修正のアダルトビデオなのだ。ハリウッドの映画などは全くない。

 日本国内では、性器にモザイクがかけないビデオ(動画記録)の販売は違法である。なんでこんな馬鹿げた法律が出来たのかはわからないが、とにかく違法なのだ。が、男という生き物はモザイクなしの映像が見たい。というわけで、裏ビデオ屋は大いに流行った。

 映像の出所は、製品化を発注されたモザイクをかける前のものだったり、インターネットで海外サイトからダウンロードされた無修正動画である。情弱(じょうじゃく)(インターネット関連の情報弱者のこと)の皆さんには、手に入らない映像だ。

 そして、白ROMに録画した違法DVDなのでそう高いものではない。

 白ROMという言葉は、今では情報の入っていないSIMカードとか、SIMカードの入っていない端末のことをさす。が、当時は盤面に絵が印刷されていないDVD-ROMのことをそう呼んでいた。ここに絵を印刷したものを「盤面印刷」と言い、白ROMよりは高かったと思う。


 この商売、当然、裏社会のシノギである。

 違法だから、いつ逮捕されるかわからない。

 けど、その時は完黙して刑務所に入る覚悟をしなくてはならない。何せ、裏についているのはヤバい組織なのだ。

 だから、裏DVD屋の店長は因果を含められていつ逮捕されてもいいように覚悟を固めている。

 その代わり、手取りは月七十万くらいだ。

 当時のデフレ不況で職のない人間には、夢のような金額だった。

 裏DVD屋には、毎週一回、DVDの補給をする人間と、売り上げの回収をする人間がやって来る。

 店長はそれ以外の人と関わりを持たない。店員がいるとしてもアルバイトが一人くらいだ。

 裏DVD屋は、公然の秘密である。

 管轄する警察署も、その存在はつかんでいた。麻薬を売られるよりはいい、ということで黙認していたのだろう。


 この裏DVD屋には、たまにガサ入れが入る。

 どこの店が摘発されるかは運次第だ。

 内偵はすぐにできる。

 夕方に「DVD」や「盤面印刷」の看板を探して何本か買えばいいのだから。

 ただ、裏DVD屋が根絶やしにされることはない。

 警察署の上層部と、地元のヤクザがつながっているからだ(と聴いた)。

 警察署長がかわると、必ず摘発がある。点数稼ぎのためだ。

 こうして警察官は「仕事をしていますよ」アビールが出来、運の悪い店長は全てをひっかぶって刑務所へ入る。

 そして、大量の裏DVDが押収され、報道のネタになる。

 警察は面目を保つというわけだ。


 では、裏DVD屋を入れていた大家はどうなるのだろう。

 世間的には、何も知らなかった善意の第三者である。

 ガサ入れの後は、がらんどうになった棚を撤去し、掃除をして次の借り主を待つ。

 裏DVD屋はビルのオーナーには受けがいい。部屋の中を汚すことがないからだ。掃除は最低限ですむ。

 店が潰れてくれれば、そのまま保証金が手に入る。うはうはである。

 というわけで、日本橋のビルオーナーたちは高い家賃を払う裏DVD屋に慣れてしまって、どんなに不景気でも家賃を下げることがなかった。

 この裏DVD屋はかなり後まで残っていた。そして、情弱たちのなけなしの小遣いを吸い上げていたのだった。


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