学びの小屋にて
春の陽射しが差し込む、白い壁の小さな小屋。
机と椅子は質素だが、窓辺には色とりどりの花が飾られ、壁には子どもたちの絵と、誰かが書いた温かな言葉が貼られている。
「ほら、今日も“ありがとう”がいっぱいだよ」
リリーが微笑んで、張り紙を指さした。
「“教えてくれてありがとう”“ゆっくり教えてくれたからわかったよ、嬉しい”…こんなにたくさん」
コーデリア達とアンドリューの提唱に王様とレオポルド王子が全面的に後押しする形でこの“学びの小屋”は正式に認可された。
それを知った日、地域の空気が確かに変わった。
「ほんとうに、応援してくださってるんだね……」
「私たちの声って届いてたんだ……!」
その喜びは、目に見える形で広がっていった。
農作業の合間にふらりと様子を見に来る人、絵本の読み聞かせに参加する祖父母たち、不要になった教本を届けに来る元教師……
誰もが“関わること”を、自然なこととして受け入れ始めていた。
「うちの子も、前より言葉が増えたよ。ありがとうって、ちゃんと言うようになったんだ」
「最初はね、こんな場所に意味なんてあるのかって思ってた。でも……違ったな。こんなにも、みんな変われるなんて」
「なにより自分たちに何が出来るかって考えて動くことができるようになったんだ。子供だけじゃなく俺たちも」
集まった人々が語る声には、驚きと誇らしさがあった。
ーーー小屋の裏庭では、リュカと数人の大人たちが薬草園の世話をしている。
育てているのは、子どもたちが描いた“お薬の絵本”に出てくる草花たちだ。
「咳が出たらこれ、って教えてくれたの。昨日は、お隣のおばあちゃんに届けに行ったよ!」
笑顔で話す子どもたちに、大人たちもつい顔をほころばせる。
「子どもたちが……まるで、みんなの孫みたいだな」
誰かがぽつりとそう言った。
その言葉に、空気がふわりと優しくなる。
「うん。だから守ってやらなきゃな、俺たちで」
「一緒に育てるって、こういうことなんだね」
その日、夜の集会では、自然と「子どもたちを見守る当番を決めよう」「困ってる子がいたら誰でも気軽に声をかけられる仕組みを作ろう」といった話し合いが行われた。
誰に言われたわけでもない。
けれど皆、自分たちの中に生まれた温もりを、形にしたくて動いていた。
ーーーそれをそっと見つめていたコーデリアは、ひとり、小屋の入口で空を仰いだ。
「……無力なんかじゃないんだね」
そう呟いた声に、隣にいたアレッサンドロがふっと笑う。
「そうだよ。君がそう思わせたんだ」
コーデリアは照れくさそうに笑い、けれどその瞳には確かな希望が灯っていた。




