王の決定
王都の一角、小さな読み聞かせ小屋。
子どもたちの声が響き、香ばしい香辛料と乾草の匂いが立ち込めるその場に、突然の知らせが届いた。
「……えっ!? 本当に? 本当に王家の支援が入るって!?」
報せを受けた女教師は目を見開き、読みかけていた絵本を思わず閉じて立ち上がる。
傍にいたパン職人の奥さんも、呆然としたように口を開けた。
「本当よ。……兄の商隊が言ってたの。今日の朝、広場で布告があったって。
“庶民向け衛生教育と知識の普及に王家が協力する”って、はっきり書かれてたらしいわ!」
ざわざわと、しかし次第に喜びの色を帯びた声が小屋の中に広がっていく。
「読み聞かせが、正式に認められたってこと……?」「補助金も出るんだって!」「すごい、うちの子にも文字を教えてもらえるかも!」
やがて誰かが、ふと漏らした。
「……あの“芋のご令嬢”が始めた活動だよな?」
そう言ったあと、彼女を知る者たちの顔に微笑が咲いた。
「ううん、“お嬢様”でも"ご令嬢"でもないよ。……あの人は、わたしたちの大切なコーデリア様。大切な仲間だよ」
誰ともなく頷く声。
泣きそうな顔で笑っていた老婆が、小さな子の手を取って言った。
「ほら、あんたたちの“台所の安全帖”も、もう立派な王家認定の“知恵”だよ。
これからは胸を張って、人に教えてあげな」
子どもは照れくさそうに笑い、絵本を抱きしめた。
そして、他国にも――
数日後。
セレノア王国からの使節が、グランツ王国の布告を見て驚きの声を上げた。
「民草の自発的啓蒙を、王家が制度として取り入れた……!? それも、支援金つきで?」
使節団の中にいた若き研究官が、すぐさま本国への報告文に筆を走らせる。
“国が民の知と力を信じ、後押しする時代が来た”――そう明記した。
ほどなくしてセレノアでも、医師団や市政を担う役人たちの間で「草の根活動の活用」への議論が活発になる。
“グランツ王国では、貧民街からスパイスと衛生の文化が芽吹いた”と、関心が高まっていくのだった。
ーーーーー
王宮・東のテラスにて
「……もう、戻れませんね」
王妃がテラスに立ち、遠く王都の光を見つめながらつぶやいた。
「王家が信じたのは“民の力”。この火は、もう誰にも消せない」
隣で王がうなずく。
その手には、コーデリアの描いた「おいしくて安全な暮らしへの絵本」の原本があった。
「彼らの声を、未来の柱にしよう。
子が育ち、文化が育ち、そして王国が育つ。……それこそ、真の繁栄だ」
静かな夜風が吹き抜け、
灯る光が、広がる未来の希望をそっと照らしていた。




