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悪役令嬢、前世は優しいおばあちゃんでした!ー連載版  作者: ちょこだいふく


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読み聞かせ会

数日後の午後。

いつものように「夜の梟」の隠し部屋には、資料とインクの香りが広がっていた。机には絵本形式の手引きが並び、絵を描くリュカの筆がリズミカルに動いている。


「ほら、これが“台所の安全手帖”の試作第一号」


コーデリアが微笑みながらページをめくると、色彩豊かなイラストと、簡単な文章が目に飛び込んでくる。


 《おにくを さわったては せっけんで あらおう》

 《つかった まな板は あついおゆで きれいに!》


「言葉を覚えたばかりの子どもでも読めるし、文字が苦手な大人にも絵で伝わるようにしたの。識字のきっかけにもなるかもって」


「うん、これはいい手だよ。何度も見て自然に身につく」


ユリウスも感心したように頷く。その隣でリオンが、香草を押し花にしたサンプルを丁寧にノートへ貼りつけていた。


「この“風露草”、つまりゲンノショウコは、煎じて飲めば整腸作用があります。下痢止めとして古くから使われていて、村でも夏場はお茶代わりに飲ませていたそうです」


「それに、この“タイム”。セレノアでも肉や魚料理に欠かせない香草です。味付けというより、防腐と殺菌のために。煮込み料理に入れたり、干し肉に一緒に詰めたり……使い道はいろいろあります」


「グランツでも育つなら、家庭に一本植えてもらいたいくらいね」


コーデリアがそう言って、タイムの小枝を手に取り香りをかいだ。爽やかで清潔感のある香りが、ふっと鼻をくすぐる。


「“台所の安全手帖”には、こういう草の知恵も絵と一緒に載せていこうと思ってるの。ほら、名前と特徴、それに“いつ・どう使うか”をまとめて」


「いいですね。読み聞かせの時間に一緒に紹介すれば、子どもたちも興味を持つはずです」


リュカもペンを止めずに加わる。「たとえば、“おなかぴーぴーのリスくん”とかどう? 風露草のお茶で元気になるお話」


「それいいね!」と皆が笑い、自然と会話が弾んでいく。


この“台所の安全手帖”は、近々開催される読み聞かせ会で初披露される予定だ。


ただの読み聞かせではない。

これは、食の安全を守るための「日常に寄り添う知恵」を届けるための小さな革命。


そしてそれはまた――

誰もが、学び合い、支え合える優しい暮らしの第一歩でもあった。


当日。

午後の陽が穏やかに差し込む「学びの小屋」には、元気な子どもたちの声や少しだけ緊張した大人たちのざわめきが広がっていた。


「今日は、“たべものとおなかの おはなし”です!」


コーデリアがにっこりと笑って前に立つと、小屋の中が静まり返る。リュカが、描いたばかりの絵本を子どもたちに向けて広げる。


《おなかぴーぴーのリスくん》

──おなかをこわして困っていたリスくんが、風露草のお茶を飲んで元気になる、という短くてわかりやすい物語だ。


「おなかがいたいときは、なにをのめばいいのかな?」


「ふうろそうのおちゃー!」


元気に答える声に大人たちもどっと笑う。けれど、その表情には真剣さも宿っていた。


「じゃあ、おにくをきったあとの ほうちょうで、やさいをきったら?」


「おなかが いたくなるかも!」


「そうだね。だから、火をとおすまえと あとの まな板や包丁は、わけてつかうんだよ」


リュカが穏やかに説明しながら、壁に貼られたイラストを指さす。そこには、カラフルな手順が描かれていた。


・まな板はにまいつかおう

・ては せっけんで しっかりあらおう

・つかいおわったら おゆであらおう


そして、その隣には実物の「風露草」と「タイム」の鉢植えが置かれ、ユリウスがそれらを紹介する。


「これが風露草。お茶にする葉っぱで、整腸の効果がある。こちらがタイム。お肉をいたみにくくする力がある。今日は、タイム入りのスープを試食に用意してあるよ」


「やったー!」「たべてみたい!」


みんなの目が輝く。

そして、セレノアの留学生たちも加わり、自国の食中毒対策を紹介する紙芝居を披露するなど、交流の輪はさらに広がっていく。


その様子を、少し離れた場所からリオンが見つめていた。


(“安全”っていうのは、こうやって伝えていくものなんだな)


ふと横を見ると、先日感心していた若手貴族の姿もあった。彼は真剣に“台所の安全手帖”を読んでいる。


「これは……貴族の邸でも取り入れた方が良さそうだ。使用人の教育にも使える」


リオンは静かに頷いた。

“知ること”が、“守ること”につながる。

そして、“守ること”は、誰かを大切にすること。


絵本一冊。草の鉢植えひとつ。

そんな小さな始まりが、誰かの未来を救うかもしれない。


──夏が来る。

誰もが動き出す季節に、

この国はまた、ひとつ未来へと歩みを進めた。



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