国際交流小屋
「ここを“国際交流の小屋”にしましょう」
コーデリアがそう提案した日、皆が集まったのは、町はずれにある使われていなかった古い建物だった。かつては倉庫だったというが、長年手入れもされず、屋根の一部は抜け、入口の扉はきしみ、蔦が絡まっていた。
「まずは掃除からだな」とアレッサンドロが工具箱を手に言うと、リュカが肩をすくめた。
「直す箇所が多すぎて目が回りそうだよ。でも正直こういうの、嫌いじゃない」
子どもたちや領民も続々と集まり、雑巾やバケツ、ほうきを手に取り、張り切って動き始めた。
コーデリアはエプロン姿で窓を拭きながら、予定表と進行計画を口にする。
「まず掃除、次に床板の補修、棚の設置、そして1番大切なのは…交流用の資料ね!」
その様子を、少し離れた場所から見守っていたのが、セレノア王国の外交官イーリスと、留学生リオンだった。
「……貴族が、泥にまみれて働くとは」
リオンの口から漏れた言葉に、イーリスが柔らかく微笑む。
「ですが、あの空気に、違和感はありませんよ。見てごらんなさい――誰もが自然に笑っています。」
しばらく黙って作業の様子を見ていたリオンだったが、ふと何かを決意したように上着を脱ぎ、袖をまくった。
「……手伝わせてください」
その一言に、コーデリアは驚いたように目を丸くしたが、すぐに柔らかな笑顔で頷いた。
「もちろん、歓迎するわ!」
イーリスもそれに続いて歩み寄り、蔦の絡まった外壁に手を添えた。
「せっかくの機会ですから、私も。祖国に報告するにも、実際に触れた言葉があった方が良いですし」
その光景を、少し離れたところで見ていたのが、新たな留学生――淡い金の巻き毛を揺らすミリアと、長身で無口な青年トーヴァルだった。
「リオン様……あのリオン様が泥をかぶって雑巾を持ってる……!」
ミリアは心底驚いた。
「……手伝うべきだろうな。学ぶとは、こういうことだ」
トーヴァルが静かに言い、黙って工具を取りに向かった。
ミリアも、少し恥じ入ったように頬を染めて、箒を手に取る。
「わ、私も!お手伝いします!」
いつの間にか、小屋の中では国籍も立場も越えて、大人も子どもも一緒に作業を進めていた。
窓が磨かれ、床が張り替えられ、古い梁には子どもたちが描いた“ようこそ”の旗が下がる。
「あのね!留学生さんに向けて“こんにちは”って色んな国の言葉調べて書いてみたの!」
「こっちは“ありがとう”だよ!」
子どもたちの明るい声が響くたび、コーデリアは目を細めて頷いた。
「いいわね、そういうのも“交流”のはじまりになるもの」
リオンは、屋根に登って瓦の補修をしていたアレッサンドロの隣で、一息つきながらぽつりと呟いた。
「……たった数日で、世界の見方が変わるとは思っていなかったよ」
アレッサンドロは釘を打つ手を止めずに、軽く笑った。
「“小さな場所”ってのはな、時に“世界そのもの”よりも強いもんさ。ここで何が生まれるか、楽しみにしてろよ」
夕暮れ、建物の扉に新しい表札が掲げられた。
《国際交流の小屋 ―ともに学び、育つ場所―》
立場も国境も超えて、共に汗を流した仲間たちの笑顔が、その名前にふさわしい温かさを灯していた。




