レモンと炭の魔法
朝からしとしと、雨が降っていた。
空は灰色、屋敷の空気もどこか重たく、使用人たちの動きもどことなくのんびり気味。
「ふぅ……なんだかジメジメしてるわね」
窓辺に座って外を見つめていたコーデリアは、小さくため息をついた。
前世でも、梅雨時の湿気には悩まされたものだった。思わず、あの頃の知恵がぽろりとこぼれ出る。
「確か……炭を置くと、空気がすっきりしたのよね」
さっそく侍女のマリアに頼んで、キッチンから炭を分けてもらう。
「お、お嬢様? 炭を……お部屋に置くんですか?」
「ええ。隅っこに置いておくだけで、空気が軽くなるの。本当は竹の炭があれば1番いいのだけれど…炭は湿気も臭いも吸ってくれるのよ。これは“東方の知恵”ってことにしておいてね。」
そう言ってにっこり笑うと、マリアは「東方の……知恵…?」と不思議そうな顔をしながらも、指示に従った。
その後、コーデリアはさらなる作戦を実行に移す。
「それからもうひとつ。キッチンで使い終わったレモンの皮、あるかしら?」
料理長は目をぱちくりさせたが、皮なら山ほどあると快諾。
コーデリアはそれを細かく刻ませ、布に包んで掃除道具にくるんだり、家具を拭いたりし始める。
「レモンの香りって、気持ちがしゃんとするのよね。それに、油汚れにも効くし」
「お、お嬢様……どうしてそんなに詳しいんですか……?」
「ふふっ、秘密よ」
炭とレモンの相乗効果で、屋敷の空気は見違えるようにさっぱりとし、ふんわりとした柑橘の香りが漂い始める。
それに気づいた使用人たちは目を丸くしながら、ぽつぽつと囁き合い始めた。
「なんだか今日、空気が軽くない……?」
「お嬢様が炭を置いてたって聞いたけど……まさか、あれが……?」
「レモンで掃除なんて、聞いたことないのに……」
誰かがぽつりと呟いた。
「もしかして……お嬢様って、東方の賢者の生まれ変わり……?」
その噂はあっという間に広がり、夕方には屋敷中の使用人たちが、密かにレモンの皮で真似し始めていた。




