防犯意識
穏やかな昼下がり。
避難演習の記録と反省をまとめたあと、コーデリアとユリウスは、学びの小屋の縁側で小休憩をとっていた。
風に揺れる薬草の香りと、子どもたちの笑い声が遠くに聞こえる中――
ふと、コーデリアが呟いた。
「……避難演習、すごく良かったわね。けれど、なんというか……“自然の災害”だけじゃ足りない気がして」
ユリウスが静かにうなずいた。
「うん、わかるよ。僕も同じことを考えてた。災害以外にも、“人の悪意”から子どもたちを守らないといけない」
コーデリアは、少し遠くを見るように視線を上げた。
「前世……私たちが子どもだった頃は、あまり言われてなかったけど。孫の通ってた学校では、不審者が出たときの避難訓練や、防犯教室があったのよ」
「“知らない人にはついていかない”とか、“大声を出す練習”とかね」
二人は顔を見合わせ、小さくうなずき合う。
「……今のこの世界でも、すべてが平和というわけじゃない。貧民街も整備されてきているけれど、外部からの流入者や、魔道具の密売など、やっぱり“危険”はある。だったら――」
「だったら、“不審者への対応”も教えるべきよね。どう行動するか、どうやって自分を守るか、逃げ方、知らせ方……ただの“怖い話”じゃなく、ちゃんとした“知恵”として」
「戦っちゃだめってことも含めてね。子どもが無闇に立ち向かえば、危険は倍増する。だからこそ、“戦わないための護身”が必要なんだ」
コーデリアは立ち上がると、軽く両手を広げて構えのポーズを取った。
「昔ね、護身術っていうのもあったのよ。大人が身を守るための技じゃなくて、子どもが“時間を稼ぐ”ためのもの。手首をひねって逃げる方法とか、蹴りじゃなくて“ひざ蹴り”とか」
「それ、僕も覚えてる。“ランドセルは盾になる”とか、“防犯ブザーを鳴らす”って」
二人は苦笑いしながらも、真剣だった。
「この世界にはランドセルも防犯ブザーもないけど……代わりになるものなら作れるわ」
「音が出る魔道具なら、リュカに頼めば工夫してくれるかもしれない。“小さくて、大きな音が出る笛”とかね」
「それいいわ!“身を守るための道具”も知識の一部として広めましょう」
そうと決まれば行動は早い。
すぐにアンドリュー王子、アレッサンドロ、リュカらに相談が持ち込まれた。
「確かに……不審者への対策か。災害の次は、防犯か。どこまでも先を見ているな、お前たちは」
アンドリューはそう言って微笑むと、真剣な表情で頷いた。
「子どもたちが、最も狙われやすい。学びの場が狙われることだってある。備えておいて、損はない」
「俺も協力する。簡単な護身術、剣術の応用で教えられることもある」
アレッサンドロが力強く言うと、リュカも腕を組んでうなずいた。
「おれは音の出る魔道具をいくつか試作してみるよ。“人の魔力に反応して音が鳴る”タイプとか、子どもが持ってても発動できるものを考える」
こうして、「防犯・護身・通報・避難」の授業が、新たに学びの小屋のカリキュラムに加わることとなった。
子どもたちは初めて知る“人の怖さ”に驚きながらも、
“自分を守る”ということの大切さを、少しずつ理解していく。
この学びは、やがて村の外にも広まり、子どもたちの未来を守る新たな柱となっていく。




