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悪役令嬢、前世は優しいおばあちゃんでした!ー連載版  作者: ちょこだいふく


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梟に集う

アンドリュー王子が“王家付民政特任顧問官”という新たな立場を得たことで、コーデリアたちの取り組みはより多くの注目を集め始めた。

共同農園や薬草園の整備、救荒植物の知識の普及、孤児院の衛生改善………どれも民に寄り添い、心を守る実践的な活動だった。


やがてその噂は他国にも届き始める。


貴族の若者たちが視察に訪れ、街の広場で子どもたちの説明に耳を傾けるようになり、都市部の薬師が学びに来るようになった。


だが、「夜の梟」の隠し部屋だけは別だった。


それは、王族の他はコーデリア、ユリウス、アレッサンドロ、リュカだけが足を踏み入れることのできる、特別な場所。


その夜。


静かに開いた隠し扉の向こうから、穏やかな足音が響く。


「……遅くなったな」


「兄上!」


現れたのは、王太子・レオポルド。

普段は完璧な儀礼と威厳を纏う男も、この部屋では少し肩の力を抜いていた。


「視察を終えて、そのままこちらへ。やはり気になるからな、この場所と、君たちの歩みが」


コーデリアが軽く頭を下げる。


「秘密の書庫へようこそ、ですね」


レオポルドは小さく笑い、棚の端に目を向ける。魔法で守られたこの空間に、王族の重圧は存在しない。


「君が“びわ令嬢”か…さつまいもの姫と呼ぶものもいるらしいな……これは褒め言葉だよ。アンドリューの報告書はどれも実に面白い」


「光栄です。王子殿下」


「兄でいいさ。ここではな。……君たちがしてきたことは、王族である我々にできなかったことだ。……それを認めるのに、時間はかからなかった」


暖かいランプの光の中で、レオポルドは続ける。


「父上との話も、順調に運んだ。……民に寄り添う弟の立場を、王家として認めると」


アンドリューが微笑んだ。


「ありがとうございます、兄上。あの場を整えてくださったことにも、深く感謝しています」


「君が“何者になるか”を、国に示しただけだよ。……そして私は、君のような人間がこの国に必要だと信じている」


視線が交わる。

レオポルドが席につき、アンドリューと肩を並べ、コーデリアたちの地図と資料に目を通し始める。


地道な農園の拡がり、薬草の成分と効能、そして「民と共にある暮らし」が描く未来のビジョン。


「この場所が……未来の設計図になるのかもしれないな」


王族の兄弟が、ひとつの机を囲む。

それは、新しい王政の芽吹きでもあった。


レオポルドは、アンドリューやコーデリアたちの活動を「王家が支えるに値するもの」として正式に認め、密かに後押ししていくことを決めた。


「公には出せないが、この部屋で得られる知恵は、いずれこの国を支える柱となるだろう」


その言葉に、アンドリューは小さく頷いた。


「兄上。僕は、王ではない道を選びましたが……この国と共に生きる覚悟に変わりはありません」


「わかっている。だからこそ、君の目を…耳を……この部屋を通して、私も借りたいと思っている」


二人の王族の視線が交わる。

力ではなく、共に築くという意志がそこにあった。


一方、表の活動も着実に広がっていた。

農園ではステビアが甘味料として定着し、小豆やよもぎを用いた「薬効菓子」も子どもたちの間で人気となった。


「おばあちゃんたちの知恵って、すごいね!」

「これもさつまいも令嬢の考えたやつなんだって!」


子どもたちの間で自然に広がる言葉。

コーデリアはそれを聞きながら、笑みを浮かべる。


「やっぱり、“おいしい”と“元気になれる”は、一番の伝わり方だね」


リュカも頷く。


「医術も、薬草も、知識じゃなくて“誰かの生活の中にある”ことが大事なんだと思うよ」


こうした実践的な知恵は王城にも伝えられ、王政改革の資料として記録されていった。


そしてある日。


再び、「夜の梟」の奥に、王太子レオポルドの姿があった。

彼は、精巧な魔道式の地図を机に広げると、静かに告げた。


「……次は、近隣諸国への連携だ。似たような問題を抱える国は多い。食糧難、貧困、伝染病……そして、民の声が届かぬ体制」


アンドリューが地図を見つめながら問いかける。


「外交の場に、私たちの取り組みを?」


「“王族が民に寄り添った国の例”としてだ」


レオポルドはわずかに笑う。


「だが、表の議場では語れない。だからこそ、“夜の梟”が必要なんだ」


その場にいた全員が、自然と姿勢を正す。


コーデリアは、手元の記録帳を開いた。

そこに書かれているのは、土の匂いのする言葉たちーーー“子どもたちの咳が減った” “畑が緑に戻った” “笑う声が増えた”。


それは、王国の未来を形づくる、何より確かな証だった。




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