薬草団子
数日後の午後。
コーデリアとユリウスは、薬草の整理をしていたリュカのもとを訪れていた。
「よもぎ団子?」
リュカは興味深そうに片眉を上げると、手にしていた乾燥させたハーブを丁寧に棚へ戻した。
「よもぎを食用で? なるほど、薬効は十分だよ。胃腸を整えるし、女性には冷えや貧血にもいい。傷薬としてはもうお馴染みだけど、摂取する形での普及は……面白いかもな」
「団子にすれば、子どもたちにも食べやすいと思うの。それに、春の訪れを感じられるような、季節のおやつにしたいのよ」
コーデリアはそう言って、持参した小豆とよもぎの乾燥葉をリュカに手渡した。
「小豆も、体に良いのは間違いないわよね? 利尿作用とか、むくみにいいって、昔はよく言われてたの」
「その通り。むくみの改善に、腎臓にも優しい。食物繊維も豊富だしな。ただ……砂糖がないとなると、小豆餡は難しいな」
リュカの言葉に、ユリウスが頷く。
「砂糖は貴族か商家でもなければ、そうそう手に入らない。保存もきくし、かなり高価だ」
「だから悩んでるの。甘みをどうするか……代わりになるものって、あるかしら?」
少しの沈黙の後、リュカは棚の奥から小さな瓶を取り出した。中には茶色い細切れの根が入っている。
「甘草って知ってるか? 強い甘みがある。ただ、漢方として使うことが多いし、長く摂ると副作用も出る。あまり大量には使えないんだ」
「薬効は?」
「咳止め、胃の調子を整える、炎症を抑える……色々あるが、味の癖が強いのが難点だな」
コーデリアは瓶を手に取り、そっと香りを確かめた。
「……うん、少し苦味と独特の風味があるわね。団子にはちょっと合わないかも」
「じゃあ、ステビアはどうだ?」
リュカは今度は干し草のような束を持ち出した。小さな葉は乾いてカサカサしているが、噛むと甘みがじわりと広がる。
「これがステビア。南方原産だけど、うまく管理すればこの気候でも育つ。甘味は砂糖の数十倍。しかも血糖値にほとんど影響しない」
「えっ、そんなに?」
「うん。クセはあるけど、甘草よりははるかに使いやすいよ。育てるのも簡単で、虫もつきにくい。薬草としてはまだ知られていないが、これから注目されるかもしれないな」
「それ、すごくいいわ!」
コーデリアは目を輝かせた。
「よもぎと小豆とステビアで……身体に優しくて、ほんのり甘い団子が作れるかもしれない!」
「お試しで、少量ずつ作ってみるのがいいな。ステビアの分量を間違えると甘すぎるかもしれない。俺の乾燥庫から少し分けよう。あとは、火加減と粉の比率の調整か」
「ありがとう、リュカ。こういう試作って、すごく楽しいわ!」
「うん、俺も久々にわくわくしてる」
ユリウスが微笑んで、二人のやりとりを見守っていた。
「団子を通して、体を守る知恵が子どもたちにも届くって、いいよな」
「ほんとにね。……“甘いもの”って、それだけで、心をほぐしてくれるから」
その日の夕方。
三人はさっそく試作に取りかかった。
手で刻んだよもぎと、やさしく炊いた小豆。蒸し器の湯気の中、ステビアのやわらかな甘さが広がっていく。
ーーー
試作したよもぎ団子は、思った以上の出来だった。
ほんのりと草の香りが漂い、よもぎのほろ苦さと小豆のやさしい風味、そしてステビアの自然な甘さが調和している。
子どもたちは最初こそ不思議そうな顔をしていたが、一口食べると目を見開き、やがて頬をほころばせた。
「……これ、おいしい!」
「草のにおいがするのに、あまい!」
「お腹があったかくなるね!」
「ふふ、よかった。これなら、春のおやつとしてもぴったりね」
コーデリアは子どもたちの笑顔を見ながら、そっと小さく頷いた。
その日の夕刻。
コーデリアはユリウスとリュカと共に、ステビアの鉢を手にしていた。
「ステビアを育ててみない?」
そう提案したのは、コーデリア自身だった。
「お砂糖は高価で限られてる。けど、ステビアなら薬草としても価値があるし、甘味料としても活用できる。もし各家庭や孤児院で少しずつでも育てられたら……おやつやお茶が、もっと身近なものになるわ」
「乾燥させて保存すれば、通年で使える。葉の量は少なくても十分甘い。土地が痩せてても育つし、水もあまり要らない。……正直、俺も驚いてるよ。もっと早く紹介すればよかったな」
リュカが肩をすくめて笑う。
「庭の隅や鉢でも十分育つし、家族で育てて使えば、薬草の知識も自然に広がるだろうね。薬師に頼らなくても、日々の暮らしで“身体を守る手段”を持てるんだ」
「うん。それが一番大事」
ユリウスが静かに言葉を添えた。
「“守るための魔法”は、薬や呪文だけじゃない。暮らしの中の工夫や知恵もまた、誰かの心と体を守る力になる」
その言葉に、コーデリアはふっと目を細めた。
「じゃあ、始めましょう。まずは孤児院の庭に。少しずつ、苗を分けて……ステビアの使い方も一緒に伝えていきたいの」
「うん。育て方の手引きも作ろう。乾燥の仕方、刻み方、保存法……それから料理への応用例も」
「焼き芋に添えても合うわ。お茶に浮かべるだけでも甘みが出るし、おかゆに混ぜてもほんのり甘い」
その後――
孤児院の一角に、ステビアの苗が植えられた。子どもたちが当番を決め、水やりをしながら名前をつけて育て始める。
「この子、甘い葉っぱちゃん!」
「こっちは、ステビア姫!!」
畑の片隅に子供たちの笑い声が広がる。
街の中でも噂は広まり、やがてステビアの苗は市でも扱われるようになった。最初は試しに買っていった人たちも、やがて「これはいい」「もっと広めて」と声をあげ始める。
そして1年後の春。
よもぎが芽を出し、小豆の甘い香りがまた台所に広がり始めた頃――
「ステビア団子」は、市場の定番おやつの一つとして、人々の暮らしの中に根づいていた。
それはただのおやつとしてだけではなく、
「暮らしの中の、やさしい魔法」としても―




