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悪役令嬢、前世は優しいおばあちゃんでした!ー連載版  作者: ちょこだいふく


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ユリウスの出番!

冬祭りの賑わいが去った後も、孤児院や貧民街にはまだ、笑顔と温もりが残っていた。

小さな子どもたちは雪の残る庭でかけまわり、大人たちは春に向けての菜園作りや、物置き小屋の建設計画を立てていた。


「春には、自分たちで育てたもので食卓をいっぱいにしたいねぇ」

「びわも、芋も、たっくさん増やせるぞ!」

期待に満ちた声が飛び交い、空気はどこか浮き立っていた。


だが、そんな中ぽつりと年配の男が呟いた。


「……なあ、ここの土地ってさ。昔、貴族様が使い道のないゴミを捨ててった場所だったんだろ?」


沈黙が広がる。


「栄養どころか毒になりゃしねぇか?…腐った薬品だの、金属だの、そういうのも混ざってたって聞いたぞ……」

「それに、あの隅の家は……呪われてるって噂、あったじゃねえか……」

「曰く付きの物を捨てたって……まことしやかに言われてたな……」


笑っていたはずの人々が、次第に顔を曇らせ、土を見つめて黙り込んだ。


ーーその時。


「その問題なら俺に解決ができます」


そう言って前に出てきたのは、ユリウス・フォン・クラウゼンだった。

彼の目は、迷いなく静かに輝いていた。


彼は黙って手袋を外し問題の土地に膝をつく。

雪解けの湿った土にそっと手を置くと、彼の手から淡い光がゆっくりと広がっていった。

暖かな風がふわりと吹き抜け、空気が澄んでいくような感覚が、周囲を包みこむ。


「この土地に染みついていた、毒や穢れはすべて祓いました。浄化といえども何をもって毒とするかなど定義がわからないと浄化しづらいのです。ある方向では毒でも別の方向からは薬になり得る事もありますから…。でも不法に廃棄されたものを分解し、取り除く…このイメージが出来たので大丈夫、ここにはもう、元々あった命を育てる力しか残っていない」


人々がどよめく中、ユリウスはもう一カ所、荒れ果てた古い小屋に向かって歩いた。


「呪いならば封じましょう」


彼は静かに小屋の扉に手を当て、術式を刻むように指を動かす。

空気が一瞬、張りつめたかと思えば、重苦しさがふっと消えた。


「……もう、大丈夫。呪いによる滞りはもはや消え去りました。ここは、もう未来のために使える場所です」


沈黙のあと、一人の少女が口を開いた。


「ほんとに……もう、呪われてないの?」


ユリウスは微笑みながら頷いた。


「保証するよ。僕の力は、そのためにある」


子どもたちが駆け寄り、大人たちの顔にも笑顔が戻る。

不安は消え、再び春への希望が芽生えていく。


その様子を少し離れた場所から見つめていたコーデリアが、そっと呟いた。


「ありがとう、ユリウス。やっぱり、あなたがいてくれてよかった」


ーーー


ユリウスの手によって穢れが祓われ、封印が施されたその土地はまるで息を吹き返したように清らかだった。

やわらかな日差しが差しこむその空き地には、住民たちの手で小さなうねが作られ、春に向けて少しずつ耕され始めていた。


「ここの土、すっごく柔らかくなってる……」

「なあ、ほんとに育つかもな。今度こそ、ちゃんと根を張ってくれるかも」


まだ不器用な手つきの者もいたが、それぞれが希望を胸にくわを振るう。

そこへ、コーデリアとユリウス、そして薬師のリュカがやって来た。


「お日様が出ている間だけでも、皆さんにびわの植え方と、救荒植物のお話をさせてくださいね」

コーデリアはにこやかに声をかけた。


リュカが取り出したのは、びわの若木、そして芽吹いたばかりのさつまいもや蕎麦の苗。

さらには「食べられる野草」の見本や、乾燥保存のやり方を記した簡単な紙がいくつか。


「ここの土にはもう、びわが根を張っても大丈夫。むしろ合ってると思うよ」

リュカがそう言うと、子どもたちが「びわって、咳に効くやつでしょ!」「チンキにするとお腹にもいいって!」と、冬祭りで学んだことを思い出してはしゃぐ。


「ねえねえ、チキン作りももう一回やっていい?」

「チキンじゃなくチンキだよ!おばあちゃんが床ずれのとこに塗ったら、よくなってきたって!」


その声に大人たちはハッとした顔をする。


「……あたしたち、知らなかっただけなんだな」

「うん。こんなに、まだまだできることがあるって」

「でももう知ったから……きっと変わっていける…」


ユリウスは、そんな人々の様子を静かに見守っていた。

土を耕す音。苗を植える手。子どもたちの笑い声。

かつて“呪われた土地”と呼ばれた場所が、いまや“希望の畑”へと変わりつつある。


そして、少し離れた場所で、コーデリアがリュカに小声で語りかける。


「この場所は、まるで再生の象徴ね」


「……それ、いいですね。みんなの未来にぴったりだ」


リュカが照れくさそうに笑う。


その隣で、ユリウスがふと、風にそよぐ芽を見つめながら呟いた。


「…消しされたものは呪いだけじゃない。

ずっと閉じ込められていた、“自分たちには何もできない”って思い込みも、一緒に祓えたのかもしれないね」


それは、少年の持つ“聖なる力”が、ただの魔法ではなく、“人の心に光を灯す力”だという証でもあった。


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