秋の実り
秋風が優しく吹き抜ける庭に、黄金色の光が斜めに差し込んでいた。
空は高く澄み、木々の葉がほんのり赤みを帯び始め、足元には落ち葉がカサカサと転がっている。
孤児院の庭の一角、コーデリアは子どもたちと一緒に、収穫されたばかりのさつまいもやそば、野草を並べていた。救荒植物として植えられたものが、今では立派に根付き、秋の恵みとして手のひらにのる。
「さつまいもは、土の中で育つから、今日みたいな乾いた日を狙って掘るのがいいの。湿ってると腐りやすくなるのよ」
そう説明しながら、コーデリアはさつまいもの表面の土を払う。手に持ったそれはまだ小ぶりだが、香りは甘く、ずっしりと重みがある。
「茹でても美味しいけど、今日は炭火で焼きましょう。外はカリッと、中はほくほくで……寒くなるこの季節にはぴったりよ」
子どもたちが目を輝かせ、薪をくべ始めた頃――
軒下の椅子に座っていた、一人の老人が静かに立ち上がった。
彼は数ヶ月前まで寝たきりで、咳もひどく声すら満足に出せなかった元兵士の老人だった。びわ茶とチンキの世話を欠かさず続けてきた成果が、今や目に見える形となって現れていた。
杖をつきながらも、彼はまっすぐに歩く。
庭の中央に立ち、うずくまっている一人の男の子に目を留めた。
「おい、レオ! こらっ! お前また勝手に刃物を使って……!」
驚いたように振り返った少年の手には、小さな包丁と赤くなった指。
「ひ、ひとりで切ってみたかっただけで……」
「“だけ”で済まんわ!」
老人はピシャリと叱る。「刃物は道具じゃ。遊びじゃない。お前が傷つけば、誰かが心配する。もう二度と勝手に触るな」
静まり返る空気。
しかしその場にいた女主人は、口元を押さえながら、涙をぽろぽろとこぼした。
「……あんな大きな声で叱って…。…言葉を……こんなにはっきり……」
コーデリアがそっと近づき、そっとその肩に手を置いた。
「大丈夫。泣いてもいいの。嬉しい涙って、心をあったかくするもの」
老人は照れくさそうに鼻を鳴らしながらも、レオの頭をくしゃりと撫でた。
「まぁ、怪我が小さくてよかったわい。お前の食いしん坊ぶりには困ったもんじゃな……。だが…それも生きてる証しだ」
焼き芋の香ばしい匂いが、風に乗ってふわりと広がっていく。
「ねぇコーデリア、このお芋、どうやって保存するの?」
「乾燥させて“干しいも”にすると、冬に食べられるの。甘味もぎゅっと詰まって、元気が出るわよ」
「そばの実も収穫できたよ! これって粉にしてパンにできるの?」
「できるわ。でも粉にするには石臼がいるから、そこは大人の手も借りましょうね。お団子にもできるし、かゆにしても美味しいのよ」
秋の空の下、小さな焚き火のそばにみんなが集まり、焼き芋の皮をむく。湯気の立つ中からは、黄金色の中身がほっくりと現れる。
「うまっ……!」
「ね、ね、これ、びっくりするくらい甘い……!」
アンドリュー王子がそっと、微笑みながら呟いた。
「人が育ち、植物が実る季節……素晴らしい、まさに実りの秋だな。こうして命の循環を見ると、不思議と、僕たちの世界も悪くないと思える」
コーデリアは穏やかに頷いた。
「たとえその時にどんなに枯れていても……諦めずまた根を張れば実りますね。命も、心も」
風が木の葉を舞わせ、誰かの笑い声と一緒に、焚き火の火がパチンと音を立てた。
この庭には、確かな命の温度があった。




