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悪役令嬢、前世は優しいおばあちゃんでした!ー連載版  作者: ちょこだいふく


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救荒植物

後日アレッサンドロ、コーデリア、ユリウス、リュカの4人は素性を話し、できることがないか協力させて欲しいと申し出た。


ーーー


孤児院の庭は、雑草に覆われ、ところどころ土がむき出しになっていた。


「ここ……何か育てるには、やはり向いてなさそうですか?」


そう尋ねたのは、孤児院の女主人。どこか申し訳なさそうに庭を見つめる彼女に、リュカは少し笑って肩をすくめた。


「いえ、充分ですよ。日当たりも悪くない。多少、土の改良は必要ですが……子どもたちが水を撒けるなら、それだけでも育てられる草はあります」


彼は背負った革のリュックを下ろし、中から丁寧に包まれた乾燥ハーブや種子の束を取り出した。


「たとえば、カモミールやセージは薬にもなるし、土地も選ばない。ミントやスイートバジルも虫除けになります。乾かせばお茶にもなる。どれも…僕が領地で育ててるものです」


「お茶? お金持ちが飲むやつだ!」


子どもたちの目が輝く。コーデリアは優しく微笑みながら、手を軽く叩いて注目を集めた。


「ねえ、みんな。“救荒植物”って知ってる?」


「きゅうこう……?」


「“困ったときの作物”って意味よ。たとえば、さつまいもや蕎麦。土があればどこでも育つし、さつまいもは葉っぱも茎も食べられるの。収穫まで時間もかからないし、育てるのも簡単」


「ぼく、いも好き!」「そばってなあに?」


「蕎麦っていうのはね、小さな実を挽いて粉にして、お団子や麺にもできる小麦のような植物。土地が痩せていても、雨が少なくても育ってくれる。花が咲けば、蜂も来てくれるのよ」


リュカが頷いた。


「そうですね。蕎麦の花は小さいけど、白くて可憐です。あと、蜂が来れば他の作物の実もよくなる。循環が生まれるんです」


「それから……タンポポやノビル、カラスノエンドウなんかも食べられるのよ。ただし、カラスノエンドウには似ているけど毒のある“スズメノエンドウ”もあるから、間違わないように気をつけること。そういう“見分け方”も、少しずつ覚えていきましょうね」


コーデリアの口調は、まるで小さな先生のようだった。彼女が知識として話していることの裏に、長く積み重ねられた経験のような深さがあると、誰もが感じていた。


アンドリュー王子とユリウス、アレッサンドロも静かにその光景を見守っていた。


「ただ施すのではなくて、自分たちの手で作る。育てて、覚えて、誰かに伝える。それができれば……孤児院じゃなくここはもう小さな学校と言って差し支え無さそうですね」


ユリウスがそう言うと、リュカは軽く目を見開いて、嬉しそうに笑った。


「いい言葉ですね。僕……ここで教えてみたいかも」


「えっ、本当に?」


コーデリアの目が丸くなる。


「ええ。……僕、貴族の家が嫌になって出てきた人間だけど……今なら、こういう場所で力になれるかもしれないって、思える」


やがて、リュカと子どもたちは庭の土を掘り返し、試しに数列のうねを作りはじめた。アンドリュー王子も、上着を脱いで加わる。


「土いじりも悪くないな。こうして何かが芽を出すのを待つのも、未来を育てている感じで…良いな!」


土を掘り、うねを整える作業の合間。リュカは持参した木箱をそっと開けた。


中には、数本の小さな苗と、琥珀色の液体が入った瓶が数本、丁寧に詰められている。


「これは……?」


女主人が覗きこむと、リュカは微笑んで答えた。


「びわの苗です。丈夫で、手がかからない。それに葉っぱも果実も使える植物なんですよ。ここで育てれば、きっと役に立ちます」


「びわって、たまに山にある甘い実のなる木ですよね?」


「そうです。でも今日見せたいのは“葉”の方。これは、びわの葉を漬け込んだチンキです。アルコールで成分を抽出してあって、患部に塗ると痛みや炎症をやわらげる効果があるんですよ」


そう言いながら、リュカは瓶を一本取り出し、孤児院の奥の部屋へと向かった。


そこには、長く床に伏していた老人が静かに横たわっていた。頬はこけ、身体は痩せ細り、時折苦しげな咳を漏らしている。体の下には、褥瘡――いわゆる床ずれの痕が見えた。


「失礼しますね。これ、少し冷たいですが……沁みるかもしれません」


リュカはガーゼにチンキを含ませ、患部にそっとあてがった。老人は小さく身じろぎしたが、やがて眉間の皺がほんの少し、緩んだ。


「……痛みがやわらいだのかな」


ユリウスがつぶやき、アンドリューもじっとその様子を見つめていた。


「びわの葉には鎮痛や消炎、咳止めの作用があるって言われてるの。私の……身近な人も、昔これで助かったことがあるの」


コーデリアが言うと、リュカがうなずいた。


「びわ茶も淹れられますよ。葉を乾かして煮出すんです。消化を助け、体を温めてくれます。穏やかで、優しい薬です」


リュカは干しておいた葉を取り出し、鍋で煮出して小さな茶器に注ぐ。


ほんのりと香ばしい香りが部屋に広がる中、茶を老人の唇にそっと含ませると、わずかに喉が動いた。


「……飲んでる」


「ええ。弱っていますが、きっと少しずつ回復します。自然の力って、侮れませんから」


その日から、びわの苗は庭の一角に植えられ、子どもたちが交代で水をやり、葉を集めて乾かすようになった。


リュカは、びわチンキの作り方を紙と図で教えた。アルコールの扱い方、瓶の密閉方法、日陰での保存――それは単なる薬の作り方ではなく、知恵として、小さな手に渡されていった。


そして数日後。


あれほど苦しげだった老人の咳はおさまり、床ずれの炎症も落ち着き始めていた。


「あの人……少しずつだけど、よくなってるみたい」


女主人が涙ぐみながら言うと、アンドリューは静かにうなずいた。


「こうして芽が出て、育って、誰かを助ける……。未来は、ここにあるんだな」


風に揺れるびわの葉の下で、子どもたちは今日も、誰かのために、そして未来のために、小さな手で土を耕し続けていた。


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