王家主催の舞踏会
コーデリアは六歳となり、王家主催の舞踏会に初めて出席することになった。
この大舞台に向けて、両親と兄は「すでに婚約者がいる」と印象づけるべきだと考え、エスコートはユリウスに…という結論に至った。
舞踏会の夜。王宮の広間は金と宝石で飾られ、天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、まるで光の海のように輝きを放っていた。
そのなかを、コーデリアはユリウスに手を引かれながら、ゆっくりと歩を進める。
十三歳のユリウスは、美しい金髪に漆黒の礼装をまとい、年齢に似合わぬ落ち着いた佇まいで、まるで物語に登場する若き騎士のようだった。
コーデリアは小さな手を彼の腕に添え、少し緊張しながらも凛とした表情で前を向く。
絶世の美女とは言えないが、にじみ出る品の良さと柔らかな雰囲気が、年齢を超えた温かさをまとわせており、二人の姿は絵画のように美しく、すぐに周囲の視線を集めた。
「コーデリア、ユリウス。なんて素敵なお二人でしょう。」
王妃が柔らかな笑みを浮かべて迎え入れ、優雅に手を伸ばして、そっとコーデリアの肩に触れる。
「ありがとうございます、王妃様。」
コーデリアは小さく礼をし、可憐に応えた。
「それに、あなたのご領地の“びわ”のお話、耳にしておりますよ。」
王妃は微笑みを崩さず続ける。「王宮の料理人が驚いておりましたわ。こんな果実があったとは、と。」
「光栄です。おかげさまで、びわを使ったスイーツが少しずつ評判になってまいりました。」
コーデリアは、照れくさそうに微笑む。
するとアンドリュー王子が興味深そうに近づいてきた。
「びわスイーツ? 聞いたことがないな。ベルフィオーレ領で採れる果実なのかい?」
「はい。もともとは自生していたものを品種改良して育てています。おすすめは、びわのコンポートと、ジュースを使ったゼリーです。」
コーデリアはしっかりとした口調で答えた。
その話に周囲の貴族たちも興味を持ち始め、次々と集まってきた。
「びわを使ったスイーツ? どこで手に入るのかしら?」「外国の果実かと思いましたわ。」
コーデリアは、やや照れながらも丁寧に一つひとつ答えていく。
その様子を、ユリウスは隣で静かに見守っていた。
一方でレティーシアは、持ち前の社交性を活かして場をさらに盛り上げていた。
「びわのリキュールもあるのですよ。とても優しい香りがするのだとか。」
「まあ、それは素敵ですわね!」
貴族たちの間で、びわという新たな話題が自然と広がっていく。
やがて、ユリウスとコーデリアが少し離れて会話をしていると、二人を見つめる視線が増えていることに気づく。
「お二人は、どうやら社交界の華やかさにはあまりご興味がないようですね。」
冗談めかした貴族のひと言に、周囲も思わず笑みをこぼした。
実際、コーデリアもユリウスも、にぎやかな場より静かな時間を好む性分だった。
前世の記憶もあってか、浮ついた駆け引きにはどこか距離を置いていたのだ。
しかし、その穏やかな空気は一瞬で変わる。
「ユリウス様、神殿で学ばれていたそうですが……最近はどうなさっているのですか?」
一人の貴族が遠慮のない問いを投げかけたとたん、場に微かな緊張が走る。
ユリウスの顔がわずかに曇ったその瞬間、アンドリュー王子がスッと割って入った。
「ところでユリウス、コーデリア嬢。びわの品種改良について、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
あえて話題を変えた王子は、自然な笑みを浮かべながら二人をその場から引き離した。
「ありがとうございます、王子。」
ユリウスはわずかに頭を下げて感謝を示す。
その後、王子は家族たち――レティーシア、アルベルト、アレッサンドロ、ユリウス、そしてコーデリア――を見渡し、静かに言った。
「皆、近いうちに正式に話をしよう。今夜は楽しんで。明日以降、使いを出す。」
その言葉に、一同は静かにうなずいた。




