みんなのコーデリア
コーデリアが六歳を迎え、領内がにわかに活気づいていたある日。
ベルフィオーレ領に、一通の書状が届いた。
――それは、王都大神殿からのものだった。
「聖なる力に親しむ令嬢の存在を確認いたしました。
神子候補として、聖堂での教育を受ける機会を設けたく、
早期に神殿預かりとすることを提案いたします。」
簡潔でありながらも一方的な文面。
その言葉の裏にあるのは、「神子」としての囲い込み――
すなわち、コーデリアを王都に引き上げ、神殿の管理下に置くという事であった。
両親から渡されて手紙をアレッサンドロは一読した。嫌な顔をし、ユリウスへ渡す。ユリウスの眉間が険しくなった。
そしてそれを見聞きしていた使用人たちにより思わぬ速さでその情報が領地内に広まった。
「なぁ、あれ……神殿が勝手にお嬢さまを連れてくかもしれねぇって話、ほんとか?」
「ばかな! 誰があの子をやらせるもんかい」
情報が村に伝わるや否や、農民たち、職人たち、商人、薬師、養蜂家、びわ農園の世話人――
あらゆる立場の領民が、公爵家の前に集まった。
「お嬢さまは、わしらの希望じゃ!」
「聖なる力だかなんだか知らねぇが、あの子を閉じ込めるようなとこにやるもんか!」
「それで罰せられるんならわしらも一緒にじゃ!」
「しっかりしとるとはいえ、まだただの子どもだろう。子供に何を背負わせようとするんだ!」
「コーデリア様は私ら市井のものの心を見て、励まし、変えてくれた!あの子は、この土地に必要な人なんだ!」
門番も呆気に取られる中、感情のこもった声が飛び交った。
ユリウスは思わず笑って呟いた。
「……本当に、たいした人だよ。守りたいと願う人が、こんなにもいる」
もちろん、神殿からの命に背けば、政治的にも波紋は避けられない。
しかし、ベルフィオーレ公爵家は即座に返答を送った。
「当領の令嬢コーデリアは、公爵家が責任を持って育てております。
王家の正式な要請でない限り、いかなる干渉もお断り申し上げます。」
返書は毅然とした文体でまとめられていた。
そして、数日後。
今度は、王都より使者が派遣された。
「神殿からの働きかけについては、すでに把握しております。
コーデリア嬢に関する件、王家としては“現状維持を望む”という見解をお伝えに参上いたしました」
その言葉に、公爵家内の空気がゆるやかにほどけていく。
使者は続けた。
「聡明で、領民にも愛されておられると聞いております。
……神殿には、神殿の思惑がありましょうが、それが人の絆を断つものであってはならない。
“信仰”と“支配”は、似て非なるものですからな」
アルベルトは深く一礼し、感謝の意を伝えた。
そして、その夜。
広場では再び、びわスイーツを皆が持ち寄り、煌々と明かりが灯され、祝宴が開かれた。
「なぁコーデリアさま、絶対誰にも連れて行かせないよう私らももしもの時は戦いますぜ!」
「そうそう!もし来たって、ぜったい負けないんだから!」
コーデリアは、困ったように笑ったあと、そっと言った。
「ありがとう。わたしは逃げたりしない、もしもの時は全力で戦うわ。だって、ここが“わたしの家”だから」
小さな声に、大きな拍手が返ってくる。
そう、彼女はもう“ただの子ども”ではない。
人々の想いが交差する、心の拠り所だった。




