コーデリア6歳!
数ヶ月が過ぎ――春の風に緑が香り始める頃。
ベルフィオーレ領では、ひとつの小さな騒ぎが密かに起きていた。
「お嬢さまの……誕生日を…ですって?」
「ええ。6歳になる日を、みんなでお祝いしたくて」
そう公爵家に申し出たのは、領の若い職人や農民たちだった。
いつも優しく微笑みかけてくれる小さな令嬢が、自分たちのためにびわ作りを提案し、自ら動いてくれたこと、そして作ったびわを褒めてくれたこと、薬草やお菓子の工房に顔を出してくれたこと、困っていたときに声をかけてくれたこと――それらのひとつひとつが、村人たちの心に深く刻まれていたのだ。
アレッサンドロたちは微笑みを浮かべて言った。
「ご厚意に、心より感謝します。ただし、どうか無理のない範囲で」
「もちろんでございます! お嬢さまの笑顔のためですから!」
そして――
コーデリアの誕生日当日。
村の広場には、朝からびわ色の布がひるがえり、屋台が立ち並んでいた。
焼きたてのびわタルト、びわジャムを詰めた焼き菓子、冷たく冷やされたびわのジュースに、さっぱりとしたびわゼリー。
びわの実を乾燥させて練り込んだクッキー、びわのリキュールで香りづけしたパウンドケーキも。
「お嬢さま、こっちこっち! 新しいびわ飴、できましたよ!」
「びわの皮とり競争、はじまりますよー!」
あちこちから声が飛び交い、子どもたちの笑い声が広場に響いた。
コーデリアはフリルのついた薄桃色のドレスを着て、少し照れたような顔でユリウスの手を引いて歩いていた。
「……こんなに、してもらえるなんて…。」
「領主の娘である前に、君が“みんなのコーデリアさま”だからさ」
そう言ったユリウスの目も、どこか潤んでいた。
そのとき、ひときわ目立つ屋台の前で、干しりんご屋の老職人・エルマンが帽子を取り、コーデリアに深く一礼した。
「お嬢さま。このたびは、心よりおめでとうございます。
こちらは、うちの干しりんごと、村で採れたびわを合わせて作った“林檎びわのタルトレット”でございます」
焼き色の美しいタルトに、透けるような干しびわとリンゴが重なり、琥珀色の光を放っていた。
「香りを保つために、びわは軽くスチームを。干しりんごは薄切りにして、一晩寝かせました。
これもすべて、お嬢さまの“やさしい味”から学ばせていただいたことです」
差し出されたタルトを、コーデリアはそっと両手で受け取った。
小さく口に運び、噛んだ瞬間――じわりと、胸の奥があたたかくなる。
「……やさしい……ほんとうに、やさしい味……」
「お嬢さまが、私たちにとてもやさしくしてくれたからです。だから、だからこそ作れたんですよ」
広場の人々が、一斉に拍手を送る。
笑顔、笑顔、笑顔――
花が咲くように、祝福の空気が広がっていった。
その日、コーデリアの6歳の誕生日は、領民たちの手によって祝福に満ちた「びわ祭り」となった。
今後、何年経とうとも誰もがあの日を思い出すだろう。
びわの香りと、小さな令嬢の微笑みを。




