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悪役令嬢、前世は優しいおばあちゃんでした!ー連載版  作者: ちょこだいふく


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薬師に会いにいく

薬草の本を抱えたまま、コーデリアは扉の前でくるりと振り返った。


「さあ、行きましょう!」


ユリウスとアレッサンドロも後に続こうとしたその時、執務室から出てきた侯爵が慌てて声をかけた。


「待ちなさい。三人だけで行くつもりかい?」


「え、はい。…でもすぐ近くですし、それに森のそばと聞いています」


「薬師に会うのなら、正式な使者として行かねば。護衛と、権限を持つ使用人も同行させよう」


侯爵夫人も静かに頷く。


「せっかく正式に話をするのですもの。礼を欠いてはなりません。子どもたちの思いが本物だからこそ、きちんと届けましょう」


ーーー


翌日の午後、コーデリアたちは侯爵夫妻に見送られながら、森の近くの集落外れにある薬師の家へと向かっていた。同行するのは、礼儀と安全を重んじて選ばれた館付きの護衛と、信頼厚い使用人の一人。


「なんだか……ちょっと緊張するわね」とコーデリアが呟くと、ユリウスが笑った。


「研究発表みたいなもんだな。…お兄さま、また肩こってるんじゃありませんか?」


「うるさい。なぜ君まで“お兄さま”呼びなんだ。僕はいつだって冷静だ」


冗談交じりの会話をしながら歩いていくと、やがて木立の中にぽつんと建つ石造りの家が見えてきた。森に飲まれるほど深くはないが、薬草や花々に囲まれた静かな一角。住まいと作業場を兼ねた、地味だがとても薬師らしい家だ。


「リュカ様のお宅はこちらです」と使用人が言い、扉をノックすると、ほどなくして少しぼさぼさの栗毛の青年が顔をのぞかせた。


「…はい。…あれ?え、本当にいらしたんですか!?」


「お手紙、読んでくださったのですね」コーデリアがにっこり微笑む。


「え、ええ……びっくりしましたよ。貴族のお嬢様からびわについて話を聞きたいなんて手紙が届くなんて…」


リュカは慌てて扉を開けながら頭を下げた。


「す、すみません、こんな格好で。あの……どうぞ、お入りください!」


家の中には、乾燥中の薬草が天井から吊るされ、棚には瓶詰めの軟膏や粉末がぎっしりと並んでいる。狭いながらも整った空間には、彼の誠実な仕事ぶりが滲んでいた。


「びわについて……実は僕も、文献で調べていたんです。葉を煎じたお茶や湿布には一定の効果があるようで。でも、種を使ったチンキのほうは……作ろうとは思っていたんですが、ちょっと手が回らなくて」


「本で読んだけど、作るのに時間がかかるんですってね?」とユリウス。


「ええ。漬け込みにもコツがいりますし、間違えると毒性の問題もある。慎重に扱う必要があります」


アレッサンドロが一歩進み出た。


「そのびわの力を、領地に広めたいと考えています。特に、薬が買えない人たちにとって、大きな助けになるはずです。あなたの知識を、私たちに貸していただけませんか?」


リュカは驚きしばし沈黙したが、やがて瞳にうっすらと涙を浮かべて言った。


「……僕で、いいんですか?」


「あなたがいいの」とコーデリアがまっすぐ見つめて答えた。


「領主家の支援もつけるつもりです。びわの効果を正しく広めるためには、薬師としてのあなたの力が必要なんです」


「……こんなふうに言ってもらえたの、初めてです。……はい、ぜひ協力させてください! 本気で、びわの研究……一緒にやりましょう!」


三人の顔がぱっと明るくなる。


「それじゃあ、どうぞこちらに」


リュカが案内してくれた作業机の周りには、使い込まれた器具と乾燥薬草の束が並んでいた。コーデリアたちは椅子を借りて腰掛けると、早速、用意してきたびわに関する資料を広げ始めた。


その時だった。ユリウスがふと思い出したように言った。


「そういえば、コーデリアが市場で湿布を渡したおじいさん……最近“肩が軽くなった”って言っているらしいよ。『もう軟膏は使わん、あの葉っぱのが効く!』って、顔見知りにまで話してるらしい」


「えっ……それ、本当ですか!?」


バッと音を立てて、リュカが立ち上がった。


「それ、すごく大事な情報です! 試した人がいるなら、まずはその話を聞かせてください!」


「え、ええと……」コーデリアが少し戸惑いながら頷く。「市場の干しりんご屋さんで、よくおしゃべりするおじいさんがいて。肩が痛いって言ってたから、家で作ったびわ湿布を少し分けてあげただけで……」


「分けたとき、湿布は何に包みました?布の種類、濡らした水の温度、時間、回数、季節……!」


「そ、そんなに覚えてないわ!ただ、おばあちゃんの知恵として知ってたやり方を真似しただけよ!」


「それがすでに“臨床データ”です!」リュカの目が輝いた。「現地の使用例があるなら、それをもとに広め方も組み立てられる。お願いです、その干しりんご店のおじいさんに直接話を聞かせてもらえませんか?」


ユリウスとアレッサンドロが顔を見合わせ、コーデリアもふっと笑った。


「……じゃあ、みんなで市場に行きましょうか。おじいさん、たぶん今日も干しりんご売ってるわ」


「やった……!ありがとうございます!びわ計画、早速動き出してる……!」


リュカは腕まくりをし、薬草のノートを抱えて玄関に向かった。


「よし、今のうちに市場の温度と湿度も測っておこう……野外使用の条件に関係あるかもしれません!」


「真面目だなあ……」とユリウスが苦笑しながらつぶやいた。


「でも、嫌いじゃないわ。こういう人」とコーデリアは小さく笑って、びわの葉が入った布袋を大事そうに抱えた。


かくして――

びわ湿布が導いた“ひとつの奇跡”は、やがて領地の人々を巻き込む新たな広がりへと変わっていくのだった。

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