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悪役令嬢、前世は優しいおばあちゃんでした!ー連載版  作者: ちょこだいふく


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突然の来訪者

真っ白な法衣に身を包んだ神殿付きの神官が、まるで女神像を崇め見るかのような目でコーデリアを見つめている。その背後には、付き従う巫女たちが静かにひざまずき、低く祈りの言葉を唱えていた。


「……この子こそ、“光を宿す魂”」


神官の声はよく通り、静寂を切り裂いた。


「幾つもの輪廻を超えてなお、輝きを損なわぬ魂。星の記録にもある……神の御手が触れた存在に違いありません。この娘は、選ばれし“導き手”なのです」


周囲の大人たちは動揺を隠せなかった。

だが、否定できる者もいない。コーデリアが語る不思議な前世の記憶や彼女を包む空気には、確かに“何か”があった。


「願わくば、この子を神殿へと——適切な守りと礼によって保護し、世の指針としてお迎えしたく……」


神官がそう言って、深く頭を垂れたときだった。


「……いやです」


コーデリアの声は、小さかったが、確かだった。


静まり返る室内に響く。


「わたしは…特別な…導き手なんかじゃない。特別な光を持ってるって言われても、それは誰かの上に立つためのものじゃない」


彼女の手は、少しだけ震えていた。

けれど、顔はまっすぐに神官を見つめていた。


「わたしはただ、周りの人の気持ちが、少しだけ揺れやすくなる力を持ってる……だけです」


「それは、“わたしがどう在るか”で決まるんです。良い気持ちでいたいから、優しくありたいから、そうしてるんです。神さまに選ばれたからじゃない」


ユリウスがそっと隣に立つ。アレッサンドロも、黙ってその場に歩み出た。


「この子を“導き手”なんて呼ぶのは勝手だけど、それを口実に連れ去ろうとするなら……俺が止める」


アレッサンドロの声は静かだったが、はっきりとした圧があった。


「彼女は、家族だ。大切な妹を“象徴”にはさせません。」


「……そして、彼女は自分で考えて、選んで、生きている。そしてそれをみんな尊重したいと考えている。」


ユリウスもまた、毅然と告げた。


痛いほどの沈黙の後、やがて神官はゆっくりと目を伏せ、深く礼をした。


「……そのご意志、確かに拝受しました。…それでも、いつかこの子が選ばれし存在として我々の前に立つ日が来ることを……ただ、祈らせてください」




ーーー


神官たちが去った後の客間には、静けさだけが残った。


コーデリアは小さく息を吐き、隣に立つふたりを見上げる。


「わたし……怖かった。……でも、ちゃんと断れて、よかった」


「うん。すごくかっこよかったよ」


ユリウスが微笑むと、アレッサンドロもふっと口元を緩めた。


その後屋敷の居間では、家族全員とユリウスが静かに座っていた。

父も母も、さきほどまでの騒動の余韻をまだ引きずっている。

だが、コーデリアの表情は意外にも穏やかだった。


「…神殿に連絡したことを怒っていないのか?」


父が、珍しく低く問いかけた。


「うん。怒ってはないよ。……でも、わたしは神殿には行かない。どれだけ褒められても、特別って呼ばれても、わたしはわたしでいたいの」


その言葉に、母が息を飲んだ。


コーデリアは静かに続けた。


「だって……誰かを自分より上の存在にして、“絶対”みたいに思った瞬間に、人は考えるのをやめてしまう。

 それが“神さま”でも、“お父様”でも、“お兄様”でも、同じ。

 ……それって、すごく怖いことだと思うの」


「コーデリア……」


母が震える声で名を呼ぶ。だが、泣きそうな表情ではなかった。

それは、どこかほっとしたような——心の深い部分がほどけていくような顔。


「自分で考える。自分で感じる。それを大事にしていたい。……神さまに近づきたいんじゃなくて、人としてちゃんと生きていたいの」


父はしばらく黙っていたが、やがてひとつ大きく息を吐いた。


「……そうだな。あれだけ堂々と断ったなら……お前の道を信じるしかないか」


言葉とは裏腹に、その声にはどこか安堵があった。


「私は……ただ守りたかったのよ。あなたの力が、どこかに利用されるよりも、ちゃんと護られる場所にいた方が安心だって……そう思ってた」


母が、すこしだけ涙ぐんだ目で微笑む。


「でも、コーデリアの言葉で、私も……自分の頭で考えなきゃって思ったわ。母親としても、ひとりの人間としても」


家族の空気が、ほんのすこしずつ変わっていく。


——そして夜も更けた頃。


ユリウスとコーデリアとアレッサンドロの3人は、屋敷の裏庭にいた。コーデリアとアレッサンドロによってユリウスとの関係を説明された両親は呆気ないほどすんなりとユリウスの事を受け入れた。言葉で何を言われるよりも、コーデリアとの間にある強い絆がまるで目に見えるようにわかったのだ。


月が、薄く雲の向こうに浮かんでいる。風が静かに髪を揺らしていた。


「すごかったね。コーデリア」


「……こわかった、でも…なんとかなったわ」


コーデリアは小さく笑った。けれどその笑顔は、どこかはにかんでいた。


「わたし、自分が怖いことに気づいたの。特別な存在にされることが、気持ちいいと思ってしまいそうで…。でも、その気持ちにのまれたら、きっとあの悪い世界線のわたしになるんだろうなって」


ユリウスは静かにうなずいた。


「うん。だからこそ、気づけたことがすごいよ。誰だって、持ち上げられたら舞い上がる。……でも、コーデリアはちゃんと地面に足をつけて、自分を見失わなかった」


「ありがとう……お兄様とユリウスが、そばにいてくれたからだよ。わたし、強くなりたい。……でも、傲慢にはなりたくないの」


「うん。僕も……君と一緒に進みたい。君が“人間として”どう生きるか、その選択の隣にいたい」


そっと沈黙が落ちる。


けれどそれは、不安やためらいではなく——どこまでも温かく、心を満たす静けさだった。

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