拡張型魔力特性
「ありがとう、お兄様」
コーデリアがそっと笑みを浮かべたとき、兄はふと何かを思い出したように席を立った。
「ちょっと待って。昔読んだ本の中に、それに近い話があった気がする」
そう言って、書斎の本棚へと向かい、上段の一角を指でなぞる。数冊を手に取り、慎重にページをめくりながら確認していく。
「……あった。これだ」
手にしていたのは、分厚い革張りの古書。背表紙には金文字で《魔力の系統と相互作用》と刻まれていた。
机に広げられたその本を、兄は迷いなくめくり進め、ある章で指を止める。
「ここ。“拡張型魔力特性と情動波及”……」
「拡張型……?」
隣から覗き込むコーデリアに、兄は静かにうなずいた。
そこには、こう記されていた。
『ごく稀に、魔力そのものに“波及性”を持つ個体が存在する。
その者の感情・意志・発言・思考は、周囲に強い影響を及ぼすことがある。
特に、幼少期の環境や周囲の精神状態によって、影響の方向性は善にも悪にも傾きやすい。
自覚のないまま“扇動者”となる事例もあり、継続的な観察と導きが重要とされる。』
「……“拡張型魔力特性”……私、それに当てはまってるのかもしれない」
「そうかもしれないね。もちろんこれは仮説に過ぎないけど……君の夢の内容とは、確かに通じるところがある」
そう言いながら、兄はページをそっとコーデリアのほうへ向け、やわらかく続けた。
「“観察と導き”と書かれているってことは…場合によっては、国や教会に届け出が必要になるかもしれないな」
「……私は……誰かの心に寄り添う力として、この力を使いたい。できるかな、そんなふうに」
「できるさ、コーデリア。君がそうありたいと願う限り、きっと」
ページの上で、兄と妹の指先が静かに並ぶ。
そのすぐそば、余白の一角に小さな書き込みがあった。
『拡張型特性を持つ者は、稀に“共鳴”を引き起こす。
ときに希望を、ときに災厄をもたらす存在——“中心者”と呼ばれる。』




