香り袋と繕い物
昼下がりの陽だまりが、館の窓辺にやわらかく差し込んでいた。
コーデリアは、白いリネンの布を膝に広げ、ちくちくと静かに針を運んでいた。
「……お嬢様、針仕事など、お怪我なさいますよ! それに、刺繍のお稽古は、侍女がついてからと――」
メイドのローザが心配そうに声をかける。
貴族の令嬢に刺繍は嗜みとはいえ、五歳の手にはまだ早いと感じていたのだろう。
手には、予備の手袋が握られていた。
「大丈夫よ、ローザ。わたし、針には慣れてるの」
「ですが……まだ五歳ですし……」
「でも、こんなふうに縫っていると、心が落ち着くの。昔はよく、ほつれた靴下とか雑巾とか、繕ったものよ。……あら、縫い目が斜めになっちゃったわ。やり直しね」
ため息まじりに笑いながら、コーデリアはすっと糸をほどいた。
その自然な手さばきに、ローザも、そばでお茶を運んでいたリディアも、ぽかんと目を見張る。
「……ほんとに、お嬢様の手じゃなくて…お祖母様の手を見てるみたいですわ……」
「ふふ、そうね。前の人生じゃ、小さな巾着袋をたくさん作ったの。おにぎりを入れたり、薬草を詰めたり……あ、そうだわ」
ぱちんと手を打ったコーデリアの顔が、ふんわり明るくなる。
「この世界には“お守り”ってないのよね? だったら、わたしが作ってみようかしら。前に子供達に作った"におい袋"みたいなものを形を変えて、中にとっておきいい香りのハーブを入れて持ち歩けるようにするの」
「お守り……ですか?」
「うん。眠れない夜に、香りをひと嗅ぎするだけで安心できるようなもの。昔ね、ラベンダーやカモミールを入れた小袋を押し入れに入れていたの。とても優しい匂いだったのよ」
「……それって…とても素敵です……!」
ローザが、ぽろりと感嘆の声をもらした。
「よし、まずはローザの分を作りましょう。布は……これを小さく切って。ハーブは、庭のミントと乾燥ラベンダーを使いましょう。あ、ちゃんと細いリボンもあるのね。嬉しい!」
小さな指が、舞うように布と糸を操っていく。
その様子に、ローザとリディアはただ見入るばかりだった。
やがて、掌におさまるほどの可愛らしい巾着袋が完成する。
淡い紫色の布には、一輪の小さな花が繊細に刺繍されていた。
そっと紐を解くと、甘くて涼やかな香りが、ふわりと立ちのぼる。
「できた。はい、ローザ」
「……あ、あのっ……ありがとうございます……!」
袋を胸に抱きしめたローザの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
まるで香りの中に、あたたかい心ごと詰まっているような気がしたのだ。
「誰かを想って作るって、素敵なことなのよ」
そう言って微笑んだコーデリアの顔は、ほんの少しだけ、大人びて見えた。




