お皿と梅干し
屋敷の食堂に、パリン…と乾いた音が響いた。
慌てた声とともに、床に陶器のかけらが散らばる。
「も、申し訳ございません…!!」
顔を真っ赤にして泣きそうになっているのは、新米の使用人・リタだった。
昼食後の片づけをしていた最中、うっかり大皿を滑らせてしまったのだ。
「リタ、大丈夫?」
そっと声をかけたのは、コーデリアだった。
彼女は慌てることもなく、すっと膝を折ってリタの隣に座り込む。
リタは目を潤ませ、うつむいたまま言った。
「このお皿、貴族様用の特別なものだって聞いてたのに……私、本当に…申し訳…わた…私なんか、やっぱりダメですね……」
コーデリアは、破片を一緒に拾いながら、ふんわりと微笑んだ。
「ねえリタ、お皿を割ったことと、あなた自身の価値は別のことよ」
リタが驚いたように顔を上げる。
「お皿ってね、使えば使うほど欠けたり割れたりするわよね。でも、それって“ちゃんと使われた証”でもあるのよ。ずっとしまい込まれていたら、割れることさえないんだから。もちろん貴族家庭で割れた食器を使っていたら他の家に侮られるから使わないけれど、それはもうその食器の寿命よ。食器はいつかは割れるもの。」
「だから、あまり気にしないで。怪我がなかっただけでも良かったわ。お皿が割れたくらいで、あなたの価値まで欠けたりしないわよ」
優しい言葉に、リタの目から、ぽろりと涙がこぼれた。
コーデリアは、小さな声でふと付け加える。
「ちなみに私なんて、前世で梅干しの瓶を割って、畳をだめにしたことがあるの。梅干し臭い六畳間で過ごした夏……あれは、忘れられないわ」
リタは、くすっと笑い、鼻をすすった。
「……ありがとうございます。梅干しって、どんなものか分かりませんが……お嬢様は本当に、あたたかい方ですね」
「ありがとう。でも、ちゃんと泣いたあとはね、何か好きなものを食べて元気を出すの。心の元気には、甘いものがよく効くのよ」
そう言って、コーデリアはそっとリタの頭を撫でた。
⸻
数時間後――
使用人控室に戻ったリタの席に、小さな包みがそっと置かれていた。
中には、ほんのりバターが香る焼き菓子と、可愛らしい手書きのメモが添えられていた。
「リタへ
この前、“クリームのたっぷり入ったビスケットが好き”って言ってたわよね。
泣いた分だけ、甘さも補給してね?
コーデリアより」
リタは、そっとビスケットを胸元に抱えた。
胸の奥が、じんわりとあたたかかった。




