恋の悩みにコーデリア様?
ある日の午後、コーデリアはふとした拍子に、メイドのリリーの元気がないことに気づいた。
「リリー、なんだかしょんぼりしてるわね。何かあったの?」
声をかけられたリリーは、慌てて笑顔を作る。
「い、いえっ! お嬢様には関係のないことですから!」
「そんな寂しいことを言わないで。関係ないって、誰が決めたの? 大切な人が困ってるなら、それは私にとっても大切なことよ」
その言葉に、子供らしからぬ落ち着きと温かさを感じたリリーは、ぽつりぽつりと語り出す。
最近、付き合っている恋人と些細なことで喧嘩が続いていること。
手紙の返事もそっけなくて、自分のことをもう大切に思っていないのかもしれない、と不安になっていること。
静かに聞いていたコーデリアは、少し考えるように首を傾げた。
「リリーは、お手紙を読んだとき、どうして悲しかったの?」
「……えっと、なんだか、冷たく感じたからです」
「それって、何か言われたのではなくてリリーが“冷たく感じた”のよね?」
「……はい」
「じゃあ、まずは“私はこう感じた”って、あなたの気持ちを伝えてみるのがいいと思うわ。相手の気持ちを決めつけるより、自分の心を丁寧に話す方が、きっと伝わるものよ」
リリーは、驚いたように目を丸くする。
「…自分の気持ちを、丁寧に…」
「そう。心で思っていても、言葉にしなければ伝わらないの。相手が察してくれることを期待して、何も言わないのは…実は、コミュニケーションを閉ざしてるのと同じだと思うわ。」
「コミュニケーションを、閉ざしてる……」
「喧嘩はね、心と心がぶつかること。ぶつかったまま放っておいたら、壊れてしまう。だから、ぶつけたあとは、ちゃんと撫でてあげるの。お互いの心をね」
小さな手をそっと重ねながら、コーデリアは優しく微笑んだ。
「大丈夫よ、リリー。あなたの優しさ、きっと届くわ」
数日後。リリーは晴れやかな表情でコーデリアのもとを訪れた。
「お嬢様、本当にありがとうございました! 手紙を書いたら、恋人も“ごめん、最近忙しくて余裕がなかったんだ。言わなくてもわかってくれると思って甘えてた”って……。ちゃんと、そのあと彼も、自分の気持ちを話してくれたんです」
「よかった。ちゃんと、心を撫で合えたのね」
照れたように笑い合うふたりの様子は、どこか姉妹のようでもあった。
――それからというもの、屋敷ではひそかに「恋の悩みはコーデリア様へ」との噂が広まり、
ごく一部の使用人たちは、こっそり“恋愛の女神”と呼んでいるものもいるとか。




