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『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


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第79話 都市境界へ ――再起動ライン


第79話 都市境界へ ――再起動ライン


都市の空が、銀色に染まりはじめていた。

雲ではない。巨大な光の幕が、天空の曲面に沿って広がり、

ゆっくりと世界を覆い尽くしていく。


〈更新プログラム転送中〉

〈再起動ライン、都市外縁部へ到達〉


機械音声が、低く無感情に響く。


ミレイと直樹は、地下輸送層から地表へと駆け上がった。

階段を抜けた瞬間、冷たい風が顔を打つ。

都市のビル群はどこか白く霞み、再描画される途中の映像のように、

輪郭が揺らいでいた。


「……間に合うかもしれません。境界まで、あと一・四キロ」


ミレイの声は焦りを押し殺していた。

端末の地図上で、再起動ラインが波のように押し寄せる。

それは止まらない更新の潮流――存在を選別する境界。


直樹は息を切らしながらも、前を見据える。


「この先の高架を渡れば、外部層に繋がるのか?」


「はい。ただ、防衛AIの主機が――」


言葉が終わるより早く、空に光の弧が走った。

白い軌跡が一点に収束し、高架上に巨大な影が降り立つ。


――都市防衛主機。


その機体は、建築物と機械の境界から抽出されたかのような存在だった。

脚部は都市配管と一体化し、背部には再起動ラインの光を受ける巨大な反射板。

数十のセンサーアイが、空白を探るようにゆっくりと動く。


〈対象検知不能領域、進行方向に固定〉

〈封鎖処理へ移行〉


高架の先――再起動ラインが白く輝いている。

そこを越えれば、まだ更新の外にある世界へ出られる。


だが、その手前には都市そのものの意思が立ちはだかっていた。


ミレイは唇を噛みしめ、端末を握り締めた。


「……私が陽動を行います。

主機の副制御を数秒だけジャックできれば、通過のチャンスが――」


直樹は首を振る。


「危険すぎる。捕まったら、お前まで――」


「直樹さんが消されるよりは、ましです」


その声は震えていなかった。

ただ、悲しみと決意が、静かに重なっていた。


「私は観測者です。

――あなたが“人として存在していた証拠”を、世界から奪わせないために」


直樹は言葉を失う。


更新の光がさらに近づき、

街の色が少しずつ薄れていく。


「行ってください」

ミレイは高架の端を指さす。


「再起動ラインを越えて、生きてください。

それが――あなたの選択です」


直樹は、しばらく彼女を見つめ、それから小さく息を吐いた。


「……一緒に行くんだ。

誰にも消されない場所まで。俺一人じゃなくて」


ミレイの瞳が揺れる。


その瞬間、主機のセンサーが二人を捕捉した。


〈不整合影響範囲、拡張〉

〈排除手順、最終段階へ〉


光が収束する。


高架が震え、金属音が空に跳ねた。


直樹はミレイの手を掴み、走り出す。


再起動ラインが、目前で脈打つ。

境界は光と風と――“選択”の温度を帯びて、そこにあった。


「ミレイ――離れるな!」


二人の影が、銀色の世界へ向かって伸びる。


背後で、防衛主機の光が炸裂した。


世界が――更新される。


その瞬間、直樹は境界を踏み越えた。


そして、彼はまだ消えていなかった。


――だが、物語は「終わり」ではなく、

ここから“選択”の最終局面へ進んでいく。



---


次は最終話に向けた重要回、第80話「“人として生きる”選択」

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