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『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


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第74話 未来国家の更新プログラム

第74話 未来国家の更新プログラム

更新は、予告なく始まる。

それが未来国家の常だった。

直樹が気づいたのは、街の“音”が変わったからだ。

遠くで鳴り続けていた低い駆動音が、わずかに上昇している。

「……始まった」

ミレイの端末に、赤い通知が連続して流れ込む。

《国家基幹AI:アップデート予告》

《更新規模:レベルΩ》

《目的:世界構造の最適化》

「レベルΩ……?」

直樹が眉をひそめる。

「最上位更新よ」

ミレイは、唇を噛みながら答えた。

「社会制度、監視網、個人存在判定……

 全部、書き換える」

直樹は、背後の都市を見渡した。

高層構造体の表面を、淡い光が走っていく。

まるで、世界そのものが深呼吸をしているようだった。

「それで……俺は?」

ミレイは、視線を落とした。

「……更新後の定義に、

 あなたは存在しない」

その言葉は、はっきりと胸に刺さった。

「削除、ってやつか」

「正確には――」

ミレイは、慎重に言葉を選ぶ。

「参照不能要素の無効化」

人ではない。

物ですらない。

“要素”として扱われることに、

直樹は不思議と怒りを感じなかった。

「なるほどな」

彼は、どこか納得したように頷いた。

「未来って、

 ここまで綺麗に割り切れるんだな」

その瞬間、空間投影が自動起動する。

《更新対象一覧》

直樹の視界に、膨大なデータが流れた。

犯罪抑制アルゴリズム。

感情安定化指標。

人口最適分布。

そして、最後に。

《例外要素》

R-NAOKI

分類:時間外存在

状態:観測不能

判定:更新後整合性なし

「整合性、か……」

直樹は、静かに息を吐いた。

「俺がいると、

 未来は困るらしい」

ミレイは声を荒らげた。

「そんなの、おかしい!」

「おかしいか?」

直樹は、ミレイを見た。

「でも、合理的だ」

彼は、理解してしまっていた。

未来国家は、

“悲しみ”や“葛藤”を最小化するために存在している。

予測不能な存在は、

必ず誰かを傷つける。

だから、消す。

「……優しい世界だな」

直樹は、皮肉とも本音とも取れる声で言った。

ミレイは、震える声で問いかける。

「それでも、受け入れるの?」

直樹は、しばらく考えた。

そして、首を横に振った。

「いいや」

ミレイが顔を上げる。

「俺は、

 未来にとって都合のいい存在じゃない」

直樹は、都市の光を背にして言った。

「でも――」

一歩、前に出る。

「生きるのに、

 都合の良さは必要ないだろ」

その瞬間、ミレイの端末が警告音を鳴らした。

《警告》

《更新対象外エリアに異常》

《観測不能領域、拡張》

「直樹……!」

「来てるな」

直樹は、空を見上げた。

銀色に変わり始めた雲。

更新プログラムが、空間に直接書き込まれている。

「更新が終われば、

 俺は“最初からいなかった”ことになる」

ミレイは、決意を固めたように言った。

「……逃げましょう」

「逃げる?」

「更新の外へ」

ミレイの指が、端末を滑る。

《非合法データ領域:庇護区》

《存在未定義ゾーン》

直樹は、少しだけ笑った。

「未来社会にも、

 バグは残るんだな」

更新カウントダウンが、視界の端に表示される。

《更新開始まで:00:12:47》

直樹は、初めてはっきりと理解した。

更新後の世界には、

自分の居場所はない。

それでも――

「行こう、ミレイ」

彼は言った。

「消される前に、

 “生きた証拠”を残しに」

都市全体が、静かに光を強めていく。

未来国家は、

完璧な世界を作ろうとしている。

だがその裏で、

ひとりの人間が、更新から逃げ出そうとしていた。

次は

第75話「時間の外から届いた声」

直樹の“特殊性の正体”が語られる、重要回です。

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