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『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


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第71話 再起動前のログ

第71話 再起動前のログ

静かな端末室だった。

未来国家中央記録局の最深部。

人の立ち入りがほとんど許されない、冷却音だけが微かに響く空間で、ミレイは一つの古いアーカイブに目を留めていた。

「……これは……」

表示されたデータのタイムスタンプは、国家再起動の直前。

百年前、世界が一度“初期化”されたとされる、あの瞬間だ。

通常、再起動前の個人ログは完全に消去される。

それが未来国家の絶対原則だった。

――だが。

「……残ってる」

ミレイの指先が震えた。

断片的な文字列。

ノイズだらけの映像ログ。

そして、識別不能として扱われていた、たった一つの個体記録。

個体識別コード:不明

観測対象:結城 直樹(推定)

「……やっぱり、あなたは“消えてなかった”」

その頃、直樹は隔離区画の簡易居室にいた。

白い壁、最低限の家具。

監視はあるが、彼の存在を正確に追えてはいない。

ミレイが入室すると、直樹は静かに顔を上げた。

「……何かわかった顔だな」

「ええ。わかったわ。

 あなたは……再起動の“外”にいた」

直樹は眉をひそめる。

「外?」

ミレイは端末を起動し、ログを見せた。

そこには、再起動直前の研究施設の映像が映っていた。

白衣の研究者たち。

不安定な装置。

そして――装置の中央に立つ、一人の男。

若い。

だが、間違いない。

「……俺だ」

「ええ。

 再起動が始まる数分前、あなたは“時間遷移装置”の稼働領域にいた」

直樹の胸に、鈍い衝撃が走った。

「つまり……」

「あなたは、国家再起動の処理対象外に弾かれた。

 世界が“保存”されたとき、あなたは保存されなかった」

ミレイは静かに続ける。

「だから、あなたは記録に残らない。

 だから、監視が効かない。

 だから――」

直樹は言葉を継いだ。

「だから、俺は“不整合”なんだな」

沈黙。

ログの最後には、短いメモが残っていた。

※当該個体は再起動後の世界において

 存在が保証されない可能性がある

 ――観測は継続すべき

直樹は苦く笑った。

「百年前から……

 俺は、様子見されてただけか」

「違う」

ミレイは強く否定した。

「“保証されない”ということは、

 裏を返せば――“排除も確定していなかった”」

直樹は彼女を見た。

「まだ……余地があるってことか?」

「ええ。

 でも同時に、あなたは次に来る“更新”で――」

言葉を止めるミレイ。

直樹は静かに息を吐いた。

「消される可能性が高い、ってことだろ」

再起動前のログは、希望でもあり、宣告でもあった。

直樹は初めて、はっきりと理解した。

自分は奇跡でも、選ばれし存在でもない。

ただ――世界の保存処理からこぼれ落ちた男なのだと。

そしてその“こぼれ落ち”は、

次の更新で修正されようとしている。

「……なあ、ミレイ」

「何?」

「もし世界が俺を消そうとするなら――

 俺は、どうすればいい?」

ミレイは答えなかった。

その代わり、再起動前ログの最下層に残されていた

未解析データの存在を、そっと指し示した。

そこには、まだ誰も読んでいない“続き”が眠っていた。

――物語は、さらに深部へと進み始める。

次は

第72話「禁忌研究の残ねん」

百年前の“失敗”が、直樹という存在とどう結びつくのかが明らかになります。

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