第69話 審問会議 ――人か、異物か
第69話 審問会議 ――人か、異物か
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審問会議室は、未来都市〈アール・ネクス〉の中心部にある
高層行政棟の最上層にあった。
巨大な円形ホール。
天井の中央には、都市AI〈コア〉の象徴である白い光球が浮かび、
ゆっくりと呼吸するように明滅している。
まるで――
これから裁かれるのは“犯人”ではなく
未来国家そのものなのだと、静かに物語っていた。
直樹は連行されたわけではない。
“任意出席”という建前だった。
だが会場に足を踏み入れた瞬間、
その言葉が空虚なものだと悟る。
背後の扉が閉まる音は、牢獄のそれに近かった。
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◆1 議題:存在の扱い
円卓の周囲には、七名の審問官が座っていた。
表情は皆、無機質な仮面のように固い。
その中央で音声が再生される。
〈審問会議議題:
“時間外帰還者・結城直樹の扱いについて”〉
直樹は、わずかに息を呑んだ。
(俺は……“扱い”なのか?)
人ではなく、ものの処遇。
胸が苦しくなる感覚が押し寄せた。
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◆2 審問官の言葉
一人の審問官が口を開く。
「結城直樹。あなたは国家レジストリにおいて
存在データの整合性が取れない生命体 と判断されています」
直樹「生命体……」
「はい。“人”とは現時点では認められていません」
淡々と告げるその声は、
たとえ「処刑」と言ったとしても
同じ調子であっただろうと思わせた。
別の審問官が続ける。
「あなたは一度、存在が“時間の外”へ逸脱しました。
そこから帰還した存在は、歴史上例がありません」
「例がないものは――危険だ」
「観測不能領域を形成しており、
都市システムの再起動に深刻な障害をもたらす可能性があります」
直樹は拳を握り締める。
「俺は……危害なんて与えていない!」
審問官にとって、それは重要ではなかった。
「意図は関係ありません。
“存在が世界に干渉する可能性”そのものが脅威なのです」
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◆3 ミレイの証言
突然、会場の扉が開き、
ミレイが駆け込んできた。
審問官「ミレイ・アークライト――
あなたは証言のために招集されています」
ミレイは直樹のそばに立ち、震える声で訴えた。
「直樹さんは……脅威なんかじゃありません!
未来を乱すつもりなんて、どこにも――」
審問官が冷たく遮る。
「あなたは一個人の感情で判断している。
国家は“理性”で判断する」
「理性?」
ミレイの目が怒りで潤む。
「整合性のためなら、人を“削除”してもいいという理性ですか?」
会場の空気がわずかに揺れる。
直樹はミレイの袖を軽く引いた。
「もういい……ありがとう」
ミレイは唇を噛みしめたまま、首を振る。
「よくないわ……私、あなたを守るって決めたの」
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◆4 審問結果の予告
審問官が形式的に宣告する。
「結城直樹。
本日の審問の結論はすぐに出ません。
だが予備判断として――」
光球〈コア〉がわずかに明滅を強める。
「あなたは暫定的に
“不整合存在・第二級”に指定されます。
消去処分の可能性は、高いままです」
直樹の背筋が寒気に包まれた。
第二級――
それは、
監視・拘束・排除を前提とした“危険存在”扱い である。
審問官は最後にこう告げた。
「再起動後の世界に、あなたの居場所はない。
それを理解していただきたい」
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帰り道、ミレイは声を震わせながら言った。
「直樹さん……絶対に“削除”させないから」
直樹はうまく言葉を返せなかった。
“居場所がない”と正式に告げられた重み。
それでも――
自分の手を放さないミレイの存在が、
唯一の救いだった。
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次話 第70話「ミレイの証言と反証」
審問会議の続き――
ミレイは直樹を守るために、“未来国家のタブー”に踏み込むことになる。




