第68話 新しい観察者たち
第68話 新しい観察者たち
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未来都市〈アール・ネクス〉の空に、
銀色の“線”が走りはじめたのは――
直樹とミレイが研究区画を離れた直後だった。
夜空でも昼空でもない、
再起動後特有の淡い灰青色の空を切り裂くように
細い光の筋がいくつも編まれていく。
ミレイはそれを見上げて、息を呑んだ。
「……来たわね。新型観察者」
直樹はその言葉に、背筋が冷たくなるのを感じた。
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◆1 “次元補完型”観察者
直樹「新型って……どれぐらいヤバいんだ?」
ミレイ「“時間外の揺らぎ”すら追跡できる。
つまり、直樹さんを確実に補足するための監視機だわ」
直樹の胸がざわつく。
「俺を……捕らえるためだけに作られた?」
ミレイ「正確には、もともと研究用途よ。
でも今回の再起動で“セキュリティ用途”に転用されたの」
それは、彼女の声が震えていたほど重大なことだった。
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◆2 観察者の姿
都市の上空で、ついに光の粒子が集まり
三角柱のような形状が浮かび上がる。
無音で、羽ばたきもなく、
ただ存在するだけで周囲の空間をねじ曲げていた。
「……あれが、新型観察者?」
「ええ。正式名称は
《V-Λ(ヴェラム)観察群体》
一体じゃないわ。あれは“群”で動く」
直樹は思わず言葉を失う。
機械なのに、どこか生物のような滑らかさがあった。
同時に、冷たい“断罪者”の匂いもする。
ミレイの目は恐怖を隠していなかった。
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◆3 ミレイの知る“禁忌の能力”
「……直樹さん。
あれに捕捉されたら、もう逃げられない」
直樹「どうして?」
ミレイ「ヴェラムは、
観測不能領域そのものを解体して、
“本来あるべきデータ構造”に強制的に補完する の」
直樹「……俺を、未来に再配置するってことか?」
ミレイ「違うわ。
“未来に存在しないものは、何もないものとして扱う”。
つまり――削除される」
直樹は息を飲む。
まるで、時間の外から戻ったことそのものが
罪だと言われているようだった。
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◆4 静かに始まる包囲
ヴェラム群体がゆっくりと下降し始めた。
一点を中心に、その周囲の“空気の密度”が変化する。
まるで、見えない水の膜が押し寄せるようだった。
ミレイが端末を叩きながら叫ぶ。
「直樹さん、ここにいたら補足される!
急いで……観測外の旧区画へ!」
直樹「旧区画?」
ミレイ「時代ごとの更新が追いついていない“遺物エリア”。
観測精度が低いから、今ならまだ隠れられる!」
直樹は頷き、走り出した。
その背後で、
ヴェラム群体が放つ淡い光が、
通路のデータを少しずつ削り取っていく。
足音が、やけに大きく響いた。
「俺を消すために……未来社会はどこまでやるつもりだ?」
ミレイは走りながら答えた。
「――この世界は、“整合性を守るためなら何でもする”。
だから私は、あなたを守るために何でもする」
その言葉は、直樹の胸に深く刺さった。
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◆5 迫る“光”
ミレイが振り返る。
ヴェラムの一体が音もなく降下し、
直樹の頭上に透明な光の帯を伸ばしていた。
「来てる……っ!」
直樹が反射的に身を屈めた瞬間――
光の帯は通路の一部に触れ、
その部分のホログラム表示が“バラバラ”に崩れ落ちた。
もし自分が一歩遅れていたら、
その光は頭部を正確に射抜いていた。
「急いで!!
あれは“解析”じゃない、処理 される!!」
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直樹は歯を食いしばり、
ミレイの差し出した手を掴んだ。
未来社会が全力で排除しようとする中、
彼を引き戻す力もまた確かに存在する。
その手の温もりを感じながら、
直樹はただ前へと走った。
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次話 第69話「審問会議 ――人か、異物か」
直樹の存在はついに国家レベルの審問へ。
人間として扱われるか、異物として削除されるか――
未来社会の“裁き”が下される。




