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『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


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第64話 消去フラグ

第64話 消去フラグ



---


未来都市〈ミレニア・リンク〉の中央に位置する国家レジストリ。

ここは、すべての市民データが管理される“未来社会の心臓部”だった。


そして今、その巨大なデータベースの奥深くで――

ひとつの小さな赤い印が、静かに点滅を始めていた。


《対象ID:YK-Naoki

 状態:不整合データ検出

 ステータス:削除フラグ(仮)付与》


それは、まだ誰も知らない“静かな死刑宣告”だった。



---



直樹は、自室の窓辺に座りながら、遠くの空をぼんやり見つめていた。


未来都市の再起動が進むにつれ、空の色は以前よりわずかに白っぽく見える。

それは、空気を構成するナノミストが更新されている証でもあった。


「……どうして、寒気がするんだろ」


自分の体が“世界に馴染んでいない”ような感覚。


肌に刺さるような違和感。

微弱な吐き気。

そして――あの“フィードバックの揺らぎ”。


(また……世界に弾かれてるみたいだ)


指先が震えた。


その瞬間――


ピッ。


空間に小さく通知音が響く。


直樹の腕輪型デバイスが、淡い光を放っていた。

本来なら、未来市民にとって日常の通知のひとつにすぎないはず。


だが画面には見慣れない文字が浮かんでいた。


《アクセス制限通知:あなたの市民情報の一部が凍結されています》


「……凍結?」


首をかしげる直樹の視界に、細かい但し書きが表示される。


《理由:整合性審査中》


「……整合性?」


読み進めようとしたとき――

端末は冷たい電子音を鳴らして、強制的に画面を閉じた。


データの詳細はもう見られない。


(なにか……起きてる)


自分の知らないところで、自分という存在が書き換えられているような感覚。


胸の奥がざわつく。


そのときだった。


ドアが激しくノックされる。


「直樹さん! 早く開けて!」


聞き覚えのある声――ミレイだ。


直樹がドアを開けると、息を切らしたミレイが飛び込んできた。


その顔色は、普段の冷静な観察者のものではなかった。


「ミ、ミレイ?どうしたの?」


ミレイは一瞬、言葉に詰まる。

けれど、覚悟を決めたように直樹の肩を掴んだ。


「直樹さん……あなたのデータに“削除フラグ”が立ったわ」


「……え?」


ミレイの瞳は震えていた。


「国家レジストリが、あなたを“存在の不整合”として処理しようとしてる。

このまま進めば……あなたは“上書きされて消える”。」


直樹の息が止まる。


「……消えるって……

 死ぬってこと?」


「もっと最悪よ」


ミレイは唇をかみしめた。


「“初めから存在しなかった”ことになる。

記録も、痕跡も、記憶データですら……全部。」


直樹の背筋を、冷たいものが走った。


(……俺が……消える?)


ミレイは続けた。


「本来なら、観察者として私は報告書を提出しないといけない。でも……」


直樹を見る目は、観察者ではなく“ただのひとりの人間”のものになっていた。


「絶対にあなたを消させない。

だから……逃げる準備を始めるわ。」


直樹は、言葉を失ってミレイを見つめる。


再起動したばかりの未来社会の奥で、

世界の仕組みが静かに牙をむき始めていた。


そして――


直樹という存在を消そうとしているのは、他でもない“未来そのもの”だった。



---


次話 第65話「未来が拒絶する生存者」

未来社会は、直樹を“存在の矛盾”として扱い始める。彼の周囲には、説明できない“認識の欠落”が発生していく。

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