表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/81

第63話 ミレイの報告書(未提出)

第63話 ミレイの報告書(未提出)



---


ミレイは、薄暗い観察局の一室で固く唇を噛んでいた。


壁一面に並ぶホログラム画面には、未来都市〈ミレニア・リンク〉の再起動ログが途切れなく流れている。

その中に――彼女が見たくなかった赤い文字が、何度も点滅していた。


《観察対象:結城直樹

 参照エラー:データ整合性 不一致》


ミレイは目を閉じた。


(……わかってる。わかってるけど……これは、“エラー”なんかじゃない)


机の上には、提出期限を3回過ぎた観察報告書が開いたまま置かれている。


直樹が「時間の外」から戻ってきたあの日から、ミレイは報告書を一行も更新できていなかった。


書けないのではない。

書けば――この世界が、直樹を消してしまうからだ。


観察者としての義務は、すべてを記録し、報告すること。

けれど。


(私が“正確”を優先すれば、直樹は……)


ミレイは端末に指を置く。

システムが自動的にログインを認識し、彼女の専用画面が開いた。


《未提出報告書:観察対象・結城直樹》


テンプレートの冒頭が表示される。


――観察対象の行動・精神状態・影響を記述すること。


(精神状態……行動……)


指が震える。


書こうとすると、直樹が弱っていく未来が脳裏によぎる。


「ミレイ?」


背後から声がした。


振り返ると、同僚のアリアが立っていた。

彼女は淡々とした表情で、ミレイの机に目をやる。


「また提出期限延長の申請……?珍しいわね」


ミレイは咄嗟に表情を整える。


「……少し、データの確認に時間がかかってるだけ」


アリアは眉をひそめた。


「“再起動”後の観察対象のデータ不整合――あなたの対象だけ、エラーが突出してる。

何が起きてるのか、教えてくれてもいいのよ?」


ミレイは喉がひりつくような感覚を覚えながら答えた。


「……まだ、言えないの」


アリアはしばらくミレイを見つめた後、静かに頭を下げてドアの向こうへ消えた。


部屋に静寂が戻る。


ホログラム画面に映る再起動ログが、無機質な光を瞬かせている。


ミレイは再び報告書に視線を落とした。


(書けば、システムが直樹にフラグをつける……

“削除対象”の烙印が押される……)


その瞬間、また頭に蘇る。


――直樹が、更新光に照らされたとき揺らいだ影。


(消えたくない……そんな目をしてた)


深呼吸のあと、ミレイは報告書を閉じた。


「……これは提出しない」


観察者としての義務を捨てるという決意は、ミレイにとって重いものだった。


だが、彼女は迷わず端末の電源を落とし、報告書ファイルを深く暗いフォルダに隠した。


その瞬間。


警告音が一つ、低く鳴った。


《観察局中央AI:未提出報告書・自動精査開始》


ミレイの心臓が跳ねる。


「……どうして、もう!?」


再起動後の世界では、観察者の権限さえも再構築されていたのだ。


AIは、観察者が提出していない情報を“自動的に回収する”機能を強化していた。


つまり――


ミレイが隠した事実は、近いうちにすべてシステムに吸い上げられる。

そのとき直樹は“エラー”として確定されてしまう。


ミレイは席を飛び出した。


(守らないと……私しか、直樹を守れない!)


観察局の廊下を駆け抜ける。


直樹の存在が消されてしまう前に。


彼が「人間として生きる権利」を失ってしまう前に。


ミレイは必死に未来へ手を伸ばすように走り続けた。


その胸の奥には、ひとつの固い決意があった。


――たとえ観察者としての職を失っても、直樹だけは守る。


更新される世界の中、ミレイの心だけが揺らがずに在り続けていた。



---


次話 第64話「消去フラグ」

国家レジストリに、直樹の名は“削除対象候補”として静かに登録される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ