表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/62

第59話 「観察者の決裂」

第59話 「観察者の決裂」


 〈監視網・第三区 異常値検出〉

 〈対象:リセッター=結城直樹 状態:観測固定〉


 ――その報告が、未来都市の中枢“アーカイブ・コア”に響いた瞬間。

 監視者たちの沈黙が割れた。


 無数のホログラムが交錯する空間。

 透明な卓を囲む十数人の影――それが“観察者評議会”と呼ばれる存在だった。


 最上位監視官クロノが立ち上がる。

 その瞳は無機質で、だが内奥には焦りが滲んでいた。


 「リセットの停止は予測外だ。だが、結城直樹の存在は依然として安定している。

  我々は観察を継続すべきだ」


 その言葉に、別の声が割って入る。

 低く、鋭い女性の声――《シグマ》。


 「継続? 彼が存在し続ければ、この世界の均衡は崩壊する。

  リセットが止まったのは“彼が軸になった”からよ。

  このままでは、観察の対象が観察者を上回る」


 議場がざわめいた。

 その瞬間、天井の投影スクリーンに直樹の映像が浮かぶ。

 街を歩き、空を見上げ、誰もいない通りで立ち止まる男。

 彼の周囲だけが、光の流れを持っていた。


 「……彼を消去すれば、世界はリセットされるのか?」

 若い監視者のひとりが問う。


 クロノは首を横に振る。

 「不明だ。だが、存在の中心を破壊することは、時空そのものを崩す危険がある」


 「それでも――放置はできないわ」

 シグマが言い切る。

 「人間として生きようとする彼の意思こそ、最大の“エラー”。

  我々は記録の均衡を守るために存在している」


 「記録のために命を消すのか?」

 ひとりの中堅監視者ルカが、低く呟いた。

 「観察とは、理解のための行為じゃなかったのか?

  我々はいつから“神のつもり”でいる?」


 会議が静まる。

 彼の言葉が、まるで刃のように空気を裂いた。


 クロノが目を閉じる。

 「……決を採る」


 〈議題:結城直樹の存在継続可否〉

 〈選択肢:保持/削除〉


 透明な票が次々と投じられる。

 数秒後、ホログラムが結果を示した。


 〈保持:6 削除:6〉


 同数。

 評議会は、初めて“決定不能”に陥った。


 その瞬間、部屋の空気が歪む。

 中央のスクリーンに、赤い警告が走った。


 〈未承認アクセス検出〉

 〈観察領域・第零層――侵入者有り〉


 クロノが鋭く顔を上げた。

 「誰だ……?」


 映像が切り替わる。

 そこに映っていたのは――カノンだった。


 「やめてください。彼を消すことは、この世界の終わりを意味します」


 彼女の声が響いた瞬間、会議場が凍りついた。

 なぜなら――彼女はすでに“記録上、存在していない”はずの人物だったからだ。


 「記録から消えたはずの個体が……?」

 シグマの声が震える。


 カノンは一歩、投影の向こうから進み出る。

 「私は記録にはいません。でも、彼の記憶の“欠片”に残っている。

  あなたたちの世界が切り捨てた“人間の記憶”に」


 その言葉に、ルカが目を見開いた。

 ――“記録されない記憶”。

 それこそが、彼女が直樹に託した最後の希望だった。


 クロノは静かに言った。

 「……カノン。お前の目的は何だ?」


 「彼を生かすこと。そして、記録ではなく“想い”が世界を繋ぐことを証明すること」


 議場の照明が落ちる。

 次の瞬間、全データ回線が遮断された。


 誰かが動いた。

 内部の誰かが――直樹の“削除計画”を実行しようとしていた。


 カノンの映像がかすかに乱れながら言った。

 「直樹……聞こえる? あなたを――守る」


 通信が途絶える。


 そして、評議会の外で、何かが“崩壊する”音が響いた。

 時間の均衡が、ついに軋み始めたのだった。


―――


次回、第60話「時間の淵で」では、

崩壊する時空の中で直樹が“存在の選択”を迫られる最終局面。

カノンの記録、監視者たちの決裂、そして――リセッターの真実が明かされます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ