表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/62

第57話 「繰り返しの終端」

第57話 「繰り返しの終端」


 目覚めた瞬間、直樹はいつも通りの静けさを感じた。

 淡い朝の光が部屋に差し込む。

 カノンの残した端末が、枕元で微かに光っている。


 ――今日もまた、同じ朝が始まるのだろう。


 そう思いながら、彼はいつものように呼吸を整え、天井を見上げた。

 だが――何かが違った。


 壁の時計の針が、「止まっていない」。

 秒針が、確かに進んでいる。


 胸がざわめく。

 いつもなら、一定の時刻になるとリセットが始まり、すべてが初期化される。

 だが、今朝はそれが起きなかった。


 時間が――続いている。


 「……止まってない?」


 口の中でつぶやいた声が、自分でも驚くほど震えていた。

 彼は急いで端末を手に取る。昨夜の記録を再生するが、もう新しい更新はなかった。

 カノンの声は、途絶えている。


 〈あなたが忘れても、私は残す〉


 その最後の言葉だけが、静かに残っていた。


 直樹は部屋の外に出た。

 街は、いつもと同じように見える。だが、妙な「生」の気配があった。

 通りを行く人々が、ほんのわずかに違う仕草をしている。

 以前は完璧に繰り返されていた動作が、今日は“曖昧”に揺れていた。


 まるで――世界が、試運転をしているように。


 「これは……継続してるのか?」


 直樹は息を呑む。

 恐怖と安堵が入り混じる。

 これまで何百回も失われた日々の、その先にいま、自分は立っている。


 リセットが止まった。

 つまり、自分の存在がようやく「記録に刻まれた」ということなのか。

 だが同時に、それは――世界が“固定された”という意味でもある。


 空を見上げる。

 雲が、いつもより遅く流れている。

 風の匂いが、生々しく肌に触れた。


 忘れられない感覚。

 生きているという、確かな実感。


 「カノン……」


 彼女の名を呼ぶ。

 返事はない。

 代わりに、端末が小さく震えた。


 画面に浮かぶ、一行の新しい文字。


 ――「リセット、停止確認。観察モード移行。」


 その瞬間、直樹の背筋に冷たいものが走った。


 彼はようやく理解する。

 この“継続する朝”は、自由ではなく――観察の新たな段階。

 そして、その視線の向こうにいる“誰か”が、今も自分を見ていることを。


 「終わりじゃない……ここから、始まるんだな」


 直樹は、薄く笑った。

 その笑みには恐怖よりも、むしろ強い覚悟が宿っていた。


 リセットが止まった朝。

 それは“永遠の繰り返し”が終わり、“真の孤独”が始まる日の幕開けだった。


―――


この第57話で、長く続いたリセットが初めて途絶え、物語は「時間の外で生きる」という第4部への転換点に入ります。

次回、第58話「残された世界」では、リセット停止後の“静止した未来社会”と、“記録されてしまった直樹”の存在の重みを描きます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ