表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/62

第53話 「観察者の涙」

第53話 「観察者の涙」


 直樹は、自分の書いた“過去からの手紙”を胸にしまい込み、深く息をついた。

 その夜――。


 眠りに落ちる直前、ふと視界の端に違和感が走った。

 窓の向こうに、ひとりの人影が立っていた。

 未来都市の監視網を逃れることなど不可能なはずなのに、その人影は淡く滲み、霧のように揺らめいていた。


 「……誰だ?」


 声に応えたのは、予想外の囁きだった。


 「――あなたを見てきました、ずっと」


 現れたのは一人の若い女性だった。

 監視者――記録社会の目そのものを担う存在。

 彼女は、恐怖と後悔を抱えたような顔で直樹を見ていた。


 「君は……監視者なのか?」

 直樹の問いに、彼女はかすかに頷いた。


 「本当は、感情を持ってはいけない。

 私たちは対象を“記録”するだけの存在。

 でも……あなたを見続けているうちに、どうしても……」


 彼女の声が震え、瞳に光るものが浮かんだ。

 直樹は息をのんだ。監視者が涙を流すなど、考えられなかった。


 「直樹さん、あなたを“異物”と呼ぶのが正しいのか、私にはもう分からない。

 リセットを繰り返しても……あなたは確かに、生きようとしている。

 その姿を見ていたら……記録ではなく、“人間”としてしか見られなくなった」


 ぽたり、と涙が落ちた。

 それは監視者にとって、最大の禁忌――感情を対象に重ねること。


 直樹は胸が締めつけられるように痛んだ。

 「……君の名前は?」


 監視者は小さく首を振った。

 「名前を持つことも、許されていません。

 でも……せめて、この気持ちだけは伝えたかった」


 次の瞬間、彼女の姿は霧のように消えた。

 残されたのは、窓に残る一滴の水跡。

 それが彼女の涙だったのか、直樹には確かめようがなかった。


 ただ、その夜。

 直樹の胸に“監視者もまた人間なのかもしれない”という疑念が芽生えた。



---


  次は 第54話「消去の決定」 です。

直樹の存在を巡って、監視者たちの議論が本格化します。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ