第52話 「過去からの手紙」
第52話 「過去からの手紙」
翌朝――。
目覚めた直樹の前には、一通の封筒が置かれていた。
それは未来の滑らかな記録媒体ではなく、黄ばんだ紙の封筒だった。
触れた瞬間、指先に懐かしいざらつきが蘇る。紙という質感。
まるで遠い過去から時間を超えて届けられたようだった。
「……これは……俺の字?」
封を切ると、中には便箋が一枚。
そこに書かれていたのは、確かに直樹自身の筆跡だった。
『未来の俺へ』
直樹の心臓は大きく跳ねた。
便箋に綴られていたのは、かつて過去に書き残したメモの断片――。
不安と恐怖の中で「誰かに気づいてほしい」と震える手で記した文字だった。
『もしこれを読んでいるなら、俺はまだ存在している。
だが記憶は失われ、同じ朝を繰り返しているはずだ。
――未来の俺よ、忘れるな。俺は確かに生きていた。』
読み進めるうちに、視界が滲んでいく。
忘却に呑まれ続ける日々の中で、確かに「過去の自分」が足跡を残していた。
便箋の最後には震えるような文字が並んでいた。
『もしも誰かが隣にいるなら、その人を信じろ。
孤独に呑まれるな。俺は、未来の俺を信じている。』
直樹は便箋を握りしめ、震える声でつぶやいた。
「……届いてたんだな、俺の声が……」
ふと横を見ると、カノンが黙って見守っていた。
彼女は静かに頷く。
「未来に届いた“手紙”は、あなたが存在してきた証拠。
忘却の海に沈んでも、こうして残る“痕跡”があるの」
直樹は便箋を胸に抱きしめた。
過去と未来が繋がった瞬間。
自分が“消されるだけの存在”ではないと初めて確信できた。
だが同時に、恐怖も忍び寄っていた。
――なぜ、この記録だけが残ったのか。
その理由を知ることが、次の扉を開く鍵になる気がした。
---
次は 第53話「観察者の涙」 です。




