第51話 「カノンの告白」
第51話 「カノンの告白」
施設を出たあとも、直樹の胸には重たい影が居座り続けていた。
自分が「副産物」だと呼ばれたあの瞬間から、心臓の鼓動は落ち着かないままだった。
夜の街並みを歩く二人。未来都市の空は人工の光で白く照らされ、星の瞬きは失われている。
直樹は歩を止め、隣に並ぶカノンを見つめた。
「……なぜ、俺をあそこに連れていった?」
カノンは小さく肩を震わせ、しばし黙り込んだ。
やがて、静かに口を開く。
「あなたには、真実を知る権利があるから」
その声音には、これまでの穏やかな調子とは違う硬さがあった。
「直樹……私もまた、普通の未来人じゃない」
その告白に直樹は息を呑んだ。
「……どういう意味だ?」
カノンは視線を夜空に向けた。
街の光にかき消されて見えない星を探すように。
「私は“観察者”として設計された存在。
でも、他の監視者たちとは違う。私は“血”を持たない。生まれたのではなく、造られたの」
直樹は言葉を失った。
未来社会に適応するよう作られた人工の存在――。
それは人間でありながら、人間ではない境界に立つ者。
「観察者たちは、あなたを“誤差”として見ている。
でも……私は、あなたを“人間”として見てしまった」
その声は震えていた。
涙こそ流れないが、その瞳の奥には深い痛みが宿っている。
「だから、私も異端。観察者の中で“異物”扱いされている」
直樹は胸の奥に熱いものを感じた。
孤独の中にいた自分と、同じように居場所を持てない彼女。
「カノン……お前は……」
言葉を継ごうとしたその瞬間、街のスピーカーから冷たい機械音が響いた。
――〈対象N、位置を確認。観察者コードCの逸脱行動を検知〉
カノンは顔を上げ、薄く笑った。
「ね、これが私の立場。あなたに真実を話した時点で、私は“逸脱者”になった」
未来の冷たい光に照らされながら、彼女の告白は直樹の胸に深く刻まれた。
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次は 第52話「過去からの手紙」 です。




