第50話 「実験体の影」
第50話 「実験体の影」
夜明けの研究施設の廊下は静まり返っていた。
直樹は案内をしてくれるカノンの背を追いながら、どこか背筋がざわつくのを感じていた。
「ここから先は、一般の未来人は入れない区域よ」
振り返ったカノンの声は、普段より硬かった。
厚い扉を抜けた先に広がっていたのは、無数の透明な筒状の装置だった。
内部には液体が満たされ、光が脈打つように点滅している。
そのひとつひとつが「観察対象」であり、過去から連れてこられた存在らしい。
「……これは?」
直樹の声は思わず震えた。
カノンは答えを濁すように視線を落とした。
代わりに、施設の奥から現れた白衣の人物が言った。
「彼らは“副産物”だ」
直樹はその言葉に凍りついた。
副産物――つまり本来の目的ではなく、何かの実験の過程で偶然生まれた存在。
「君も、そのひとりだ」
白衣の人物の目は冷たく、まるで人間ではなく標本を見るかのようだった。
「リセット現象は、我々が意図したものではない。だが、観測を続けるうちに理解した。君の存在はこの時代の“誤差”だ。そして、誤差は記録のために利用される」
――実験体の影。
直樹の胸に、黒い影が広がった。
自分は生きているのではなく、ただ「結果」として存在させられているのか。
人間としてではなく、記録装置として。
「……俺は、記録のために生かされている?」
問いに返答はなかった。
ただ、筒の中で静かに浮かぶ数多の人影が、無言でその答えを物語っていた。
カノンが小さく唇を噛みしめ、視線を逸らしたのを直樹は見逃さなかった。
――なぜ、彼女は俺をここへ連れてきた?
――そして、彼女自身は何者なのか?
冷たい蛍光灯の光が、直樹の背に長い影を落とした。
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次は「第51話 カノンの告白」です。




