第5話「博物館にいた自分」
---
第5話「博物館にいた自分」
都市中央アーカイブから移動してすぐ、カノンは直樹をとある施設へと案内した。建物の入口には《時代遺産博物館》という名前がホログラムで表示されている。
「ここに……俺がいるって?」
「はい。あなたがこの世界で“初めてリセットされた人間”として記録されて以来、その存在は歴史上の転換点として扱われています。ここには、あなたの“人生”が展示されているんです」
扉が静かに開き、館内へと足を踏み入れる。そこは静かで、人工照明の柔らかな光が、時代ごとの展示を浮かび上がらせていた。蒸気機関の模型、スマート端末、そして滅んだ旧世界の新聞記事。その先に、ガラス張りの特別展示室があった。
直樹は、そこで凍りついた。
そこに――自分が立っていた。
いや、正確には自分そっくりの人形。だが、それは単なる模型とは思えない精巧さだった。肌の質感、瞳の光、わずかな皺までもが忠実に再現されている。
「これは……どういうことだ?」
「あなたがリセットを繰り返していたという記録と、その“状態”が維持されていた痕跡が発見されたのは、2114年の始めのこと。すでに生身のあなたは行方不明とされていましたが、この展示は、“最終観測された状態”を元に再現されたものです」
「観測……?」
カノンは頷く。
「あなたは、眠るたびに一日前の身体に戻る“リセッター”でした。しかし、記憶はリセットされる。だから、あなた自身には“連続した意識”が残らない。――これは、外部からの観測によって初めて明らかになった事実なのです」
直樹は唇をかみしめた。
自分が、誰かの観測対象だったという現実。そして、その生き様が“展示”として扱われているという異様さ。
「それじゃ、俺は……人間としてじゃなく、“現象”として扱われてるのか?」
「そうとも言えます。でも、私は――あなたを“人間”として見ています」
カノンは、まっすぐな目でそう言った。直樹の胸に、何か温かいものが灯るのを感じた。
自分は、ただの記録じゃない。まだ、ここにいる。
――自分の存在は、ここから取り戻す。
その決意が、静かに芽吹いた。
---
次回、第6話「老いない体」へ続きます。