第48話 未来の禁書
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第48話 未来の禁書
深夜の資料庫。
カノンは静かに指先をかざすと、壁に埋め込まれた認証装置が淡い光を放った。
未来社会の記録はすべて厳重に管理され、特に“禁書”と呼ばれる文献に触れることは、観察者でさえ許されていなかった。
「直樹さん……ここから先は、本当なら見せてはいけないものです」
カノンの声には震えがあった。
だがその瞳は、迷いを振り切った強さを帯びていた。
直樹は頷いた。
「俺は、もうとっくに禁じられた存在なんだろ? なら、見せてくれ」
やがて、透明なケースの中から古びた記録媒体が現れた。
電子でもなく紙でもない、未知の素材で編まれた書。
カノンが両手で持ち上げると、その表紙に刻まれた文字が浮かび上がった。
――《RESETTER》
直樹の心臓が大きく跳ねた。
「……これは……!」
「未来社会の記録の中に、唯一“消されなかった単語”です」
カノンは静かに続ける。
「『リセッター』。存在するはずのない人間の記録。……直樹さん、これはあなたのことなんです」
ページを開くと、そこには断片的な記述が並んでいた。
「“観察不能の人間”」「“時間の外に立つ者”」「“永遠の忘却者”」――。
直樹の背筋に冷気が走る。まるで自分の人生が、すでに誰かに書かれていたようだった。
「……俺は、最初から未来に知られていた……?」
声は震え、指先は冷たく強張っていた。
カノンは唇を噛んだ。
「本当は、これを見せること自体が処罰対象です。でも……直樹さんが“ただの人間”だと信じたいから。あなたに知ってほしかった」
その時、資料庫の空気が不意に張り詰めた。
光の粒子が揺れ、低い電子音が響く。
――侵入検知。
「……見つかった」
カノンの顔色が変わる。
直樹は咄嗟に禁書を抱きしめた。
未来の禁じられた記録を抱えたまま、二人は闇の中へと駆け出した。
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第48話では、ついに「リセッター」という言葉が未来の禁書に記されていることが判明しました。
直樹の存在は“予言された異物”だったのかもしれない――そんな不穏な予感を残す展開です。
次は 第49話「忘却の海」。
直樹は禁書を見ても翌朝には忘れてしまう。しかし、すべてが消えても、心の奥に微かに残る“感覚”が描かれます。




