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『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


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第46話 兆し

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第46話 兆し


 朝の光が差し込む。

 直樹はゆっくりと目を開けた。

 いつも通り――そう思った瞬間、胸の奥で違和感がざわめいた。


 枕元に置いていた小さな紙片。

 昨夜、確かに白紙だったはずのそれに、かすかな筆跡が残っていた。


 《ナオキ》


 たった三文字。

 震えるような字で、自分の名前が書かれている。


 「……これは、どういうことだ?」


 リセットされるたびに、すべては初期化されるはずだった。

 昨日書いたものも、昨夜の会話も、眠ればすべて消える。

 それなのに――紙片は消えていなかった。


 ◇


 その日、街を歩きながらも直樹は心ここにあらずだった。

 未来都市の大通りは整然と人々が行き交い、誰もが記録に沿って生きている。

 だが、直樹の足取りだけが宙に浮いているようだった。


 「完璧じゃない……」


 自分を閉じ込めてきた世界に、初めて“綻び”が見えた。

 それは微細な乱れにすぎない。

 しかし、砂漠の真ん中で見つけた一滴の水のように、彼にとっては圧倒的な希望だった。


 ◇


 夜、カノンにそのことを打ち明けると、彼女の瞳が揺れた。

 「……記録に残らないはずの痕跡が、残った?」


 直樹は頷いた。

 「もしかしたら、俺のリセットは……壊れ始めてるのかもしれない」


 沈黙が流れる。

 それは恐怖でもあり、同時に解放の予兆でもあった。

 ループを支配してきた絶対の法則が、初めて揺らいでいる。


 カノンは小さく呟いた。

 「直樹さん……あなたの時間が、動き出そうとしているのかもしれない」


 その言葉に、直樹は息を詰めた。

 長い孤独の闇に、ほんのわずかに差し込んだ光。

 それが幻か現実かも分からない。

 だが確かに、そこに“兆し”はあった。



---


この第46話では、リセットの絶対性に揺らぎが生まれる瞬間を描きました。

次回 第47話「観察者との接触」 では、この揺らぎをきっかけに、ついに「謎の観察者」が直樹の前に現れます。




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