第45話 反復の孤独
第45話 反復の孤独
直樹はベッドの上で膝を抱えていた。
今日もまた、昨日の記憶は霧のように消えている。
気づけば、彼の毎日は“同じ一日”の繰り返しにしかならなかった。
朝に目覚め、街を歩き、カノンと出会い、夜を迎える。
そして眠りにつくと――すべては白紙に戻る。
「……俺だけが進めない」
その事実が胸を締め付ける。
街の人々は未来を生きている。子どもは成長し、大人は老い、記録は積み重なっていく。
だが直樹だけは、過去を失い、未来に進めない。
◇
ある日、街の広場で子どもたちの笑い声が響いていた。
小さな未来の玩具を追いかけ、弾む声が風に乗る。
その姿を見た瞬間、直樹の胸に刺すような痛みが走った。
――自分には、この子たちの未来を見届けることができない。
今日出会っても、明日には忘れてしまう。
彼らにとって直樹は「一度きりの出会い」であっても、直樹にとっては永遠に「初めての再会」だ。
孤独が、底なしの穴のように広がっていく。
◇
夜、カノンの前で直樹は耐え切れずに言った。
「もう駄目だ。……何をしても、全部消えていく。俺だけ取り残されて、何度も……何度も……」
声が震え、涙が滲んだ。
未来の世界で泣き崩れる大人の姿は、誰の記憶にも残らない。
だがカノンは黙って直樹の手を握った。
「直樹さん。あなたが忘れても……私は覚えているわ」
その言葉は慰めであり、同時に絶望でもあった。
彼女は覚えている。自分は忘れる。
二人の時間は決して交わらない。
直樹は、その矛盾の中で押し潰されそうになっていた。
---
この第45話では、直樹の「進めない時間」による孤独と絶望を深く描いています。
次回 第46話「兆し」 では、この反復の中に小さな“乱れ”が生まれ、物語が動き始めます。




