第43話 監視者の眼
第43話 監視者の眼
静かな街路を歩く直樹の背に、ひそやかな視線が注がれていた。
未来の社会には、すべてを見守る「眼」が存在する。都市を覆う監視システム、無数のセンサー、そして人知れずその網の目を操る者たち――人々は彼らを「監視者」と呼んだ。
だが、多くの市民はその存在を意識すらしていない。監視があまりに自然に、生活の隅々に溶け込んでいるからだ。
ただ一部の者たちだけが知っている。監視者は単なる治安維持の仕組みではない。社会に潜む「異物」を見つけ出し、記録し、排除する使命を帯びているのだ。
――そして今、その「異物」と名指されたのが、結城直樹だった。
◇
「また見られている気がする……」
直樹は街角に立ち止まり、背後を振り返った。人々はそれぞれの暮らしに忙しく、彼の存在など気にも留めない。だが、視線の圧力は確かにあった。
気のせいではない。彼の行動はすでに記録され、知らぬ間に報告されている。
日々のリセットを繰り返す存在――常識ではありえない矛盾。社会の秩序から外れた存在。監視者たちが最も注目する対象だった。
「……異物」
その言葉が、冷たく耳の奥で響くように感じた。
◇
一方、都市の奥深く――
膨大な映像と数値が流れる監視室。その暗闇に沈む空間で、数人の影が無言でモニターを見つめていた。
「結城直樹。異常行動、継続」
冷たい声が、記録用の端末に打ち込まれる。
彼らにとって直樹は、興味深い観察対象であると同時に、社会の安定を揺るがしかねない「危険因子」だった。
だが、軽々しく排除するわけにはいかない。なぜなら、直樹の存在はこの百年後の世界においても、未解明の謎に満ちていたからだ。
「監視を強化せよ。だが接触はまだするな」
指令が飛ぶ。
モニターの中、街を歩く直樹の姿はただの一市民にしか見えない。
だが、その影は確実に「監視者の眼」の中心に捉えられていた。
◇
直樹は胸騒ぎを抑えきれず、歩を速めた。
――なぜ自分がここにいるのか。なぜ記憶を持たずに繰り返してしまうのか。
その答えを探す旅は、思いがけず別の「眼」に導かれようとしていた。
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この第43話は、直樹が「ただの迷い人」から「社会にとって異物」と見なされ始める重要な転換点になっています。
次回は、直樹がその視線の正体を少しずつ感じ取り、監視社会の仕組みに迫っていく展開になります。




