第31話「偽りの未来」
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第31話「偽りの未来」
真実は、静かに崩れ始めていた。
“観察対象ゼロ”となった直樹は、非記録圏の集落からさらに奥地へと向かっていた。カノンと共に辿り着いたのは、かつて都市連盟が掲げていた「未来都市構想」の初期実験区域──現在では封鎖され、忘れ去られた人工都市〈ノヴァ〉だった。
その街は静まり返っていた。高度なAIと管理システムが導入された都市設計の名残はあったが、いまは動力すら止まっている。だが、そこに眠る記録端末の一つが、直樹に真実を告げることになる。
「この都市……“完成”していたんじゃない。最初から、計画の“表向き”だっただけだ」
カノンが映し出した映像には、信じがたい内容が残されていた。
理想の未来をうたい、人々が管理のもとに幸福を享受するはずの未来都市。しかしその裏では、反乱、暴動、そして“処分”された住民たちの記録が、機密コードの中に秘匿されていた。
「……これが“理想”の正体?」
直樹は画面を睨んだ。
数多くの市民が、データ操作により「幸福な暮らし」をしているように演出されていた。実際には、自由を奪われ、思考すら誘導されていた。
希望に満ちた未来など、最初から存在していなかったのだ。
その映像の一角に、直樹の若いころの姿が映っていた。
だが、すぐにその映像は黒く塗りつぶされ、上書きされた。
「直樹……これ……」
カノンが言葉を詰まらせる。
それは、直樹がこの社会で何らかの重要な役割を担っていた証だった。彼の存在は、未来都市計画の“中枢”にいた可能性を示していた。
「僕は……この虚構の未来を創った側の人間だったかもしれない」
自らが憎んできた管理社会を、自らが支える立場にいた――そんな可能性が浮かび上がる。
だが直樹は、そっとカノンを見た。
「でも、今の僕は……それを壊す側でいい」
虚構の未来にしがみつくより、自らの足で歩く“今”を信じたい。
管理されない未来、誰にも操られない希望。
それを築くために、直樹は進む覚悟を決めた。
そして二人は、封鎖されたノヴァの中に隠された真実をすべて掘り起こすべく、再び歩き出した。
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続いて、第32話「記録ノートのゆくえ」を執筆しましょう。




