表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/62

第29話「静かなる反乱」

---


第29話「静かなる反乱」


 非記録圏に暮らす人々は、沈黙を生きていた。

 語らず、記さず、ただ在ることを選んだ人々。だが、その静けさの奥に、直樹は確かな“意志”のようなものを感じていた。


 集落に暮らすある老女が、ぽつりとつぶやいた。


「昔、記録に抗おうとした者はね、声を上げずに行動したのよ。誰にも見つからぬよう、でも確実に」


 それは、暴力による反乱ではなかった。

 むしろ、社会の目からそっと外れることで、記録の権力に傷をつける静かな抵抗だった。


 やがて直樹とカノンは、村の広場に招かれた。そこでは、定期的に集会のようなものが開かれていたが、言葉は交わされなかった。人々は火を囲み、互いに目を見交わすだけで通じ合っていた。


 その中心に座る青年が、直樹に近づいた。

 彼の名はシエン。非記録圏をまとめるリーダーのような存在だった。


「君は……“観測されていない”人間だろう?」


 唐突な問いかけに、直樹はうなずいた。


「記録に存在しない者が記録社会に与える影響は大きい。だから君のような存在が現れると、管理側は焦る。存在しない者の行動は、記録では制御できないからな」


 直樹は、警戒と希望の入り混じった目で彼を見返した。


「だから、君を象徴にしたいという者もいる。けれど、僕たちは“誰かに託す”というやり方はしない。変革は、誰かの英雄譚ではなく、無数の匿名の行動から生まれる」


「……“静かな反乱”か」


 シエンは微笑んだ。


「そうだ。君がここに来たのは偶然ではない。これも何かの連鎖の一部かもしれない。君のリセット現象も、記録が全てだと思い込んできた社会への問いだとしたら――」


 直樹は、小屋に戻ってから一晩中考え込んだ。


 記録から逸れた存在たちが、声を上げずに世の仕組みを揺るがしている。言葉を持たぬ書簡と、静かに燃える人々の意志。それは確かに、自分の中にも根付き始めていた。


 翌朝、直樹は手記にこう記した。


> 「記録されないということは、無ではない。むしろ、“記録されぬ意志”こそが、最も強い自由なのかもしれない」




 非記録圏の静寂は、確かに風を孕んでいた。

 それは、確実に社会の中心へと広がろうとしていた。



---


次は第30話「“観察対象ゼロ”」を執筆しましょう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ