第2話 見知らぬ時代
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第2話 見知らぬ時代
記憶をリセットされている。
その一文は、背筋を凍らせるには十分すぎた。だが、ページはそれで終わってはいなかった。ノートには、さらに続きがあった。
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「君は『リセッター』だ。
毎晩、眠るたびに記憶も身体も“ある日”の状態に戻る。
これはその事実を伝えるために、君自身が何度も書き残したノートだ。」
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まるで他人が書いたような――けれど確かに、自分の筆跡だった。
「……そんなバカな」
独り言は、返ってこない。壁の向こうに誰かの気配もない。無音の世界。ディスプレイの時刻だけが、じりじりと時間の経過を告げている。
だが、すぐにノートの裏表紙に、貼り付けられた小さなチップのようなものを見つけた。指で触れると、自動的に映像が再生された。
そこには、まさしく自分――若い姿の“自分”が映っていた。
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「これを見ている君へ。おそらくまた記憶がないだろう。信じてほしい、君はここに何度も目覚めている。もう数年はこのサイクルを繰り返しているようだ。だが今日の君は、特別だ。今朝、リセットが起こらなかった。」
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思わず手が震えた。
つまり今日の自分は、「初めて未来を記憶することができる自分」なのだ。昨日までは、何度同じ目覚めを繰り返しても、夜になればすべてが“ある日”に戻っていた。
「……記憶も、身体も。完全に巻き戻されるってことか……」
手元を見つめた。傷一つない。けれど、それは昨日の怪我が治ったわけではない。そもそも“怪我をする前の自分”に戻ってしまう。
そして、未来の自分は言った。
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「原因は“あの日”だ。君がリセッターになった“ある事案”。それを思い出すことが、この現象を終わらせる唯一の鍵だ。」
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だが、自分にはまだ何も思い出せない。
だが確かに、今日だけは違う。
「……よし。今日から、答えを探そう」
そう呟いて、ゆっくりと立ち上がる。ベッドルームの扉に手をかけると、認識機能が作動し、自動で開いた。
目の前には、広大な都市が広がっていた。
空を走る電車、光の柱のようにそびえるビル群、そして空中を移動する無人ドローンたち。音のない、けれど確かに生きている世界。
——2114年。知らない時代が、目の前にあった。
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次回、**第3話「リセットの理由」**へ続きます。