第18話「世界の輪郭」
---
第18話「世界の輪郭」
「直樹さん、あなたに……この世界の“全体像”をお見せします」
カノンの声は、これまでにない緊張を含んでいた。
彼女は立体モニタの一つに手をかざし、施設全体のセキュリティを一時的に無効化する。
「セキュリティを解除……大丈夫なのか?」
「これは“許可されていない情報”ですが、あなたには“例外的なアクセス権”があります。――“あなた自身が過去に申請した”のです」
「俺が……?」
驚く直樹をよそに、部屋の中央に巨大なホログラムが浮かび上がった。
それは球体――惑星だった。いや、正確には“変質した地球”だった。
「……何だこれ。地形が……歪んでる?」
「現在、私たちがいるのは旧ユーラシア大陸の東端、かつての日本列島の一部――**“第三区再生圏”**と呼ばれる再構築区域です」
その地図には、広大な廃墟地帯、都市型ドーム、無人区、管理社会区域など、あらゆる“区分”が描かれていた。
まるで人類そのものが実験対象のように管理されているようだった。
「どうして……こんなことに?」
「“再生”の名のもとに行われた社会実験です。“人口再統合”“環境再生計画”“記憶管理法”――すべては“人類の未来”のために制定されました。ですが、その過程で失われたものも、数多くあります」
直樹は息を呑んだ。
彼が知っていた世界――日常、家族、時間の流れ。それはもう、存在していない。
「この世界では、“人間の記憶”さえ、管理の対象です。そして……あなたはその“境界”にいた」
カノンの瞳が、まっすぐ直樹を見つめる。
「直樹さん。“世界の輪郭”は、ぼやけています。多くの人が、その中で“与えられた物語”を生きています。
でも――あなたは違った。あなたは、その外に出た数少ない人なんです」
直樹は、映し出された歪な地球の像を見つめた。
自分は、世界の外にいた。あるいは、外に“出されていた”。
「……俺は、どうして戻されたんだ?」
「それを知るには、最後の扉を開けるしかありません」
そのとき、ホログラムの中心に赤い点滅が現れた。
“観測不能領域”――そこには、直樹の名が刻まれていた。
---
次回、**第19話「観察者の涙」**へ続きます。




