第17話「消された記録」
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第17話「消された記録」
記録保管庫の一角――そこに“空白”があった。
プレートが抜け落ちたかのように、規則的に並ぶ光の列の途中だけがぽっかりと闇に沈んでいた。
「ここだけ、記録がない……?」
直樹が訝しむように問うと、カノンはわずかに目を伏せて答えた。
「はい。原因は不明ですが、およそ5年間分の記録が完全に失われています」
「記録が……消える? そんなこと、あるのか?」
「原理上、あり得ないことです。記録は物理的にも多重に保存され、外部からの改ざんは不可能とされてきました。ですが――何者かによって、意図的に“抹消”された痕跡があるのです」
直樹の背筋が凍った。
自分が17年間生きていた、そのうちの5年分が、何者かの手によって消された?
「……なぜそんなことを?」
「その時期、あなたはある“組織”に接触していた可能性があります。“観測者”でもなく、“記録者”でもない――もうひとつの第三勢力」
カノンが手をかざすと、プレートの断片映像が空中に浮かび上がった。
そこにはフードを被った集団が映っていた。だが、顔はどれもぼやけ、会話の音声もノイズに埋もれていた。
「この映像だけが、かろうじて残っていた断片です。この時期以降、あなたの記録は一切残されていません。つまり――あなたは“誰にも見られない場所”にいたということです」
「……俺が、自分の意思でそこに?」
「それも不明です。ですが……記録の最後の言葉だけが、断片的に保存されていました」
カノンがそっと転送したそのメッセージを、直樹は震える指で再生する。
> 『もしこの記録を誰かが見ているなら――俺を、思い出してくれ。』
胸の奥に、針のような痛みが走った。
自分自身が残したかもしれない、過去からの声。それは確かに、今の直樹に語りかけていた。
「……俺は、消されかけていたんだな」
「ええ。でも、それでもあなたは生きていました。そして、こうしてまた記録に戻ってきた」
沈黙が部屋を包む。
記録はすべてを語らない。けれど、記録の“消失”が語ることもある。
直樹は静かにうなずいた。
自分を消そうとした何者か。
そして、自分がそこにいたという事実。
その真実に、少しずつ手が届き始めていた。
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