第15話「科学と信仰のはざまで」
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第15話「科学と信仰のはざまで」
「――この現象を、神の御業と呼ぶ者もいます」
カノンの口から、突然にしてはあまりに重い言葉がこぼれた。
神? この未来の、冷たく機械的にすら見える世界に?
直樹は意表を突かれて、一瞬言葉を失った。
「……信仰なんて、この時代にもまだ残ってるのか?」
「ええ。科学が進歩すればするほど、人々の間で“科学で解明できないもの”に対する信仰はむしろ強まりました」
彼女の語る未来には、かつての宗教とは違う、新しい“崇拝の形”が存在していた。
ある者はAIの集合体を神と呼び、ある者はこの宇宙全体を観測する“理性の意思”を信じていた。
そして、極めて限られた一部の者たちは、直樹のような“リセッター”の存在を「神が遺した奇跡」とみなしていた。
「待て……それ、俺を“神の使い”みたいに崇めてるってことか?」
直樹が苦笑まじりに問い返すと、カノンは首を横に振った。
「いいえ。信仰とは崇拝ではなく、“理解を放棄した受容”です。彼らは、あなたの存在を解析することをあきらめ、ただ“そういうものだ”と受け入れています」
それは科学とは真逆の姿勢だった。
科学は、あくまでも現象に説明を求める。原因と結果。理論と検証。
だが直樹の現象は、現代科学を超えていた――
その謎の前では、すべての知識が無力になる。
「……つまり、俺は人類の知の限界を証明しちまってるわけか」
「あなたは、観測者たちにとって“境界線”そのものです。科学と信仰、理性と神秘。そのはざまに立つ存在――それが、今のあなたです」
その言葉に、直樹は言いようのない孤独を感じた。
人類の最前線に立ちながら、誰にも理解されない。
自分の存在すら、自分で証明できない。
彼は静かに目を閉じ、いつの間にかノートに書かれていた一文を見つめた。
> 「信じるしかないことがある。
でも信じたところで、何も変わらないこともある。」
それを書いたのがいつの“自分”なのか、もう覚えていなかった。
けれどその言葉だけが、確かに今の彼の心に残っていた。
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