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声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


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51話目

夜会の華やかな雰囲気の中、ミシェリアとヴィヴィアンには貴族たちからの関心が集中していた。


「正式な結婚式は、いつなさるのですか?」


「そうですわ。お二人の式はきっと華やかでしょうから、楽しみにしておりますのよ。」


そんな質問が次々と飛び交う。

どうやら、社交界では彼らの神殿婚が大いに話題となり、正式な結婚式への期待が高まっているようだった。


「えぇ……来年に予定しています。」


ミシェリアが穏やかな笑みを浮かべて答えると、貴族たちは満足そうに頷いた。


「それは待ち遠しいですわね。」


「ラヴェルノワ公爵夫妻の結婚式なら、きっと王宮の式にも劣らない壮麗なものになるでしょう。」


確かに、正式な結婚式は来年の予定であり、すでに準備も進められていた。

しかし、二人の結婚があまりにも急だったことから、「なぜ今すぐに挙げなかったのか」と不思議がる声も少なくなかった。


とはいえ――。


世間では"美麗なる情熱の公爵"としてヴィヴィアンの人気が異常なほど高まっており、ラヴェルノワ夫妻のロマンスは、ついには"恋愛小説"にまでなってしまっているほどだった。

夜会に出席している貴族たちの間でも、その話題が尽きることはない。


「奥方をあれほど溺愛なさる公爵閣下とは……実に見事なご関係ですな。」


「まるで恋愛詩に出てくるような情熱的な愛を貫かれるとは、素晴らしいことです。」


そんな風に語る者も多く、ミシェリアを悪く言う者はほとんどいなかった。

むしろ、完全に"公爵に振り回される気丈な夫人"というポジションが出来上がってしまっている。


(……これって、もしかして私がヴィヴィアンに手を焼いてるって認識されてる?)


ミシェリアは内心でため息をついた。

実際、その認識は間違っていないので否定もできないのが辛いところだった。


そんな中――


「公爵夫人、よろしければ一曲踊っていただけませんか?」


ふと、ある貴族の男性が彼女へ申し出る。

その男は洗練された身のこなしを持つ男爵家の若き当主で、先ほどから彼女と穏やかに会話を交わしていた人物だった。


(……社交の場だし、普通の申し出よね。)


ミシェリアは軽く考えながら、申し出を受けるかどうかを決めようとした。

しかし――。


「……。」


突然、背筋に冷たいものが走る。

ゆっくりと視線を横にやると、そこには今にも人を刺し殺しかねないほどの顔をしたヴィヴィアンがいた。


(……怖っ!!)


ミシェリアは無意識に息をのむ。

彼の紫紺の瞳は鋭く光り、明らかにこの場にそぐわないほどの殺気がにじみ出ている。


(このまま断らなかったら、後でどうなるのかしら……。)


ほんの数秒で計算する。

ここで断れば、社交上の関係を損ねるかもしれない。

しかし、受け入れれば――ヴィヴィアンが確実に暴走する。


(……まぁ、後のことは後で考えよう。)


最終的に、社交の場を優先し、彼女は微笑んだ。


「えぇ、喜んで。」


一瞬にして、ヴィヴィアンの放つ殺気が倍増したのがわかる。

周囲の貴族たちが"あっ"と息をのむのが聞こえた気がした。


(大丈夫よヴィヴィ、ほんの一曲だから!!)


心の中で必死に言い訳しながら、男爵家の若き当主の手を取り、ダンスの輪へと進む。

曲が始まり、優雅なリズムに乗せて踊り始める。


しかし――


(……背中が、熱い。)


そう、ヴィヴィアンの視線が突き刺さるように感じるのだ。

曲に合わせて軽やかに踊りながらも、彼の視線だけは背後からずっと感じ続けていた。


(絶対に見張られてるわ……。)


遠くの方をさりげなく横目で確認すると、そこにはやはりヴィヴィアンの姿が。

彼はグラスを持ったまま微動だにせず、ミシェリアを見つめ続けている。


(こ、怖い……。)


まるで今すぐにでも"奪い返し"に来そうな気配を漂わせており、もはや彼の隣にいる貴族たちですら、若干距離を取っているのが分かる。


「……公爵閣下は、奥方を大変大事にされているようですね。」


男爵家の当主が、苦笑しながらぽつりと呟いた。

どうやら、彼にもヴィヴィアンの視線が感じ取れているらしい。


「えぇ……えぇ、本当に……。」


ミシェリアは、曖昧な笑みを浮かべながら小さく相槌を打った。

すると、彼は軽く肩をすくめながら微笑む。


「……公爵閣下に命を狙われる前に、早めにお返ししましょう。」


「そうしてくださると、助かりますわ。」


軽い冗談のように交わされる会話。

しかし、ミシェリアの背中には未だに刺さるような視線が――。


曲が終わり、最後の決めのステップが終わると同時に、男爵家の当主はすぐさまミシェリアを元の場所へと送り届けた。


「ありがとうございました、公爵夫人。」


「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。」


そう言葉を交わした直後。


――ガシッ。


「……!」


ミシェリアの手が、強い力で引かれた。

振り返ると、そこにはヴィヴィアンが立っていた。


「終わったか?」


「え、えぇ……?」


「なら、戻ろう。」


有無を言わせぬ声。

ミシェリアは一瞬戸惑いながらも、仕方なくヴィヴィアンに連れ戻される形で歩を進めた。


彼の手のひらからは、微かに熱が伝わる。

それは怒りの熱ではなく――"不安"のような、なんとも言えない熱だった。


(あぁ……もう、本当に……。)


ミシェリアは小さく息を吐く。

そして、そっと彼の指に自分の指を絡ませた。


(こんなに分かりやすく振り回してくれる公爵様って、他にいるのかしら。)


彼の嫉妬も独占欲も、ここまでくるといっそ清々しい。

そう思いながら微笑んだその瞬間――ミシェリアの目がとある人物を捉えた。


「あっ、シェリーお姉様だわ!」


ヴィヴィアンの手を振りほどくようにして、ミシェリアは軽やかに歩き出す。

そして振り返り、彼の腕を引っ張った。


「ヴィヴィアン、あっちに行くわよ!」


「……っ、ミーシャ?」


勢いに押され、彼は少しだけ戸惑った様子を見せるものの、ミシェリアの決意に抗えないと悟ったのか、何も言わずに従った。


その先にいたのは、シェルリア・ローベルク――ミシェリアの姉。

彼女の隣には、シルバーグレーの髪を持つ男性が立ち、エスコートするように優雅に佇んでいた。


(……あれは、ヴィルダン?)


ラヴェルノワ公爵家の四男、ヴィルダン・ラヴェルノワ。

彼は普段、領地で公爵家の騎士団長を務めており、社交の場に顔を出すことは滅多にない。

そんな彼が、シェルリアをエスコートしているとは――少し意外だった。


「お姉様!」


嬉しそうに駆け寄るミシェリアに気づき、シェルリアは微笑んだ。


「ミシェリア!」


二人は自然と抱き合う。


「お姉様、会いに行けなくてごめんなさい。」


「ほんとよ!全然帰ってこないんだから、心配したでしょう?」


シェルリアは少し頬を膨らませるようにして、姉らしい口調でそう言った。

その仕草が懐かしくて、ミシェリアは小さく笑った。


「あはは……。」


「それにしても、すっかり公爵夫人ね、ミーシャ。」


そう言って、シェルリアは彼女の姿を改めて見つめる。

気品あるドレスに、堂々とした立ち居振る舞い。

ミシェリアが、もうローベルク伯爵家の令嬢ではなく、ラヴェルノワ公爵家の夫人としてこの場にいることを改めて実感したようだった。


「えぇ、本当にね。」


微笑みながら答えると、その横でヴィヴィアンが低く呟いた。


「お前がどうしてここにいる?」


彼の視線の先には、シェルリアをエスコートしていたヴィルダン。


普段、領地で騎士団を率いる彼が、この夜会に出席するのは珍しいことだった。

ヴィヴィアンの鋭い問いかけに、ヴィルダンは少し困ったような顔をしながら答える。


「ヴィーネストが来られないから、俺……いや、僕が代わりに守るように言われた。」


「ヴィーネストが?」


ヴィヴィアンは眉をひそめた。


(ヴィーネストがシェルリア姉様の護衛を……?)


ミシェリアも不思議に思ったが、それ以上深く詮索することはしなかった。

ヴィルダンはいつも領地にいるが、ラヴェルノワ公爵家の一員であることに変わりはない。

そう考えれば、弟の指示で護衛に回るのはあり得る話だった。


「まぁ、とにかく……お姉様と会えてよかった。」


ミシェリアは改めてシェルリアを見つめ、心から安堵の表情を浮かべる。


その時――。


夜会の空気が変わった。


流れ出した旋律。


それは、知る人ぞ知る"難解なダンス"の曲だった。

この夜会の最後を飾る伝統的な舞曲であり、貴族の中でも高い舞踏技術を持つ者だけが踊ることを許される、特別なダンス。


「……。」


周囲の貴族たちは、さりげなくパートナーを見つけ始めていた。

誰もが慎重に選び、この曲を踊るにふさわしい相手を探している。


そんな中、ヴィヴィアンがゆっくりとミシェリアの前に立つ。


「ミーシャ。」


静かに、けれど確かな決意を込めて、手を差し出した。


「踊ろう。」


紫紺の瞳が、真っ直ぐに彼女を見つめている。

その目には、まるで"お前以外に選択肢はない"と言わんばかりの強い意志が宿っていた。


ミシェリアは一瞬戸惑う。


(この曲は……難しいわよ?)


通常の舞踏とは違い、完璧なステップと、息の合った動きが求められるダンス。

ほんの少しでも足が乱れれば、全体の調和が崩れてしまう。


だが――。


(……この人となら、大丈夫。)


ヴィヴィアンの手を見つめた後、静かに微笑んだ。


「えぇ、喜んで。」


彼女が手を重ねると、ヴィヴィアンは満足そうに微かに笑う。


そして、二人は舞い始めた。


流れる旋律に合わせ、ミシェリアは優雅に回転する。

ヴィヴィアンはそれを支えながら、スムーズにステップを踏んでいく。

完璧なリード――まるで、二人だけの世界が作られるような感覚だった。


会場の貴族たちは、その踊りに息をのむ。


「……まるで物語の一幕のようだわ。」


「さすがはラヴェルノワ公爵閣下と公爵夫人……。」


そんな囁きが、あちこちから聞こえてくる。


最後の音が響き渡り、二人が静かに動きを止める。


ヴィヴィアンは、ミシェリアをしっかりと支えたまま、低く囁くように言った。


「やはり、ミーシャ以外と踊るつもりはなかった。」


ミシェリアは、息を整えながら小さく微笑む。


「……ふふふ。私も本当はヴィヴィとだけ踊っていたいわ。」


二人が見つめ合う中、会場には拍手が沸き起こる。


夜会の幕が閉じるその瞬間まで、彼らはただ、お互いの存在を確かめるように手を重ねていた。

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