表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
声を失った公爵様に嫁ぎます 〜前世の夫から逃げたいのに、なぜか執着されてるんですが!?〜  作者: 無月公主


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/72

44話目

ワルツの余韻が残る中、ヴィヴィアンの瞳がふと鋭く細められた。

視線の先には、王太子ミリスクレベン――。


彼は優雅に舞いながらも、明らかに ミシェリアを見ていた。

隣で踊るリーサに気を配る様子もなく、ただ、執拗にミシェリアを――。


(……相変わらず、諦めが悪い。)


ヴィヴィアンは僅かに唇を引き結ぶ。


そして、ワルツが終わり、ミシェリアが社交の場へと向かおうとした瞬間――

彼は次のダンスへと構えた。


「え? ヴィヴィ?」


ミシェリアが驚いて振り返るが、ヴィヴィアンは 彼女の手を取って離さない。


「今夜は……独占する。」


その言葉と同時に、次の曲が始まる。


「え?」


――再び、彼の腕に包まれた。


「ちょっと、ヴィヴィ? もう一曲踊るつもり?」


「当然だ。」


「そ、そんな……。」


彼の手が、ミシェリアの腰をしっかりと抱き寄せる。

その力強さに、逃れられないことを悟った。


一曲目が終わり、二曲目。

二曲目が終わり、三曲目。

そして、四曲目――。


「えええ~~!? もしかしてこれ、全曲踊るんじゃないでしょうね!?」


さすがに息が上がり始めたミシェリアが訴えたが、ヴィヴィアンは涼しい顔のまま。


「ミーシャ。まだ余裕だろう?」


「……!!」


――嘘よ、この人!

完全に体力お化けじゃない!


曲が激しさを増すたびに、ミシェリアのドレスが宙を舞い、会場の視線が集まる。

けれどヴィヴィアンは気にすることなく、ミシェリアだけを見つめ続けていた。


彼の強い腕に囚われ、逃げられないまま、ミシェリアはただ 彼の思惑通りに踊るしかなかった――。


◇◆◇◆◇


6曲目の舞踏が終わり、ミシェリアはついに 限界 を迎えていた。

足元はふらつき、軽く息を切らしている。


「ヴィヴィ……もう無理……。」


「……すまない。つい、夢中になっていた。」


ヴィヴィアンは彼女を優しく支え、そっと腰を休ませるために隅へと誘導する。

しかし―― 周囲の視線が熱い。


特に、ダーンストレイヴ公爵夫人 クラリス の目が厳しく光っていた。


「……まぁ、まぁ。」


夫人は 微笑みながら、ゆったりと近づいてくる。

しかし、その瞳には、微かな 警戒 と 探るような光 があった。


「ラヴェルノワ公爵、公爵夫人

まさか主催の舞踏会で、こんなにも目立たれるとは思いませんでしたわ。」


(……やっぱり、非常識だった!?)


ミシェリアは内心青ざめる。

社交の場では、1曲踊るごとにパートナーを変えるのが暗黙のマナー。

6曲も独占 してしまうなど、 明らかに異例の事態 だった。


「まぁ、しかし――」


クラリス夫人は ゆるりと微笑みながら、ワイングラスを優雅に持ち上げる。


「公爵家の跡取りともなると、愛が深すぎるのですわね。」


(……これは嫌味!? それとも…良しと思われているの!?)


ミシェリアは夫人の笑みを読み取ろうとしたが、 完璧な貴族の仮面 の前に、ただ曖昧に微笑むことしかできなかった。


「大変結構なことですわ。

――ですが、そろそろご社交にもお戻りくださいませ。」


つまり――

「この場で二人の世界に浸りすぎるのはお控えなさい」 という 警告 である。


「……えぇ、もちろんですわ。」


ミシェリアは 淑やかに微笑みながら、内心でため息をついた。


(……ヴィヴィアンのせいよ!)


横目でヴィヴィアンを見ると、彼は どこ吹く風の涼しい顔 をしていた。

まるで 何の問題もない とでも言いたげに。


――この公爵、本当にどこまでもマイペースなのだから。


◇◆◇◆◇


ダンスの余韻も冷めやらぬうちに、ミシェリアは ヴィヴィアンに手を引かれ、静かなテラスへと連れ出された。


夜風が肌をくすぐり、月明かりが二人の姿を淡く照らす。


「……どうしたのよ、ヴィヴィ。」


少し息を整えながら、ミシェリアは不満げに尋ねた。

先ほどのクラリス夫人の忠告があるだけに、今は社交の場に留まるべきだった。


「社交の場で目立ちすぎるのは良くないって、分かってるでしょ?」


静かに、だが はっきりとした口調 で問いかける。


しかし――ヴィヴィアンは、ただ じっと彼女を見つめるだけ だった。


長いまつげの奥で揺れる 紫紺の瞳。


そこには、ただならぬ 焦燥 と 執着 が滲んでいた。


「アイツが……」


ヴィヴィアンは 低く、絞り出すように 呟いた。


「王太子が、ミーシャを見ていた。」


(……え?)


一瞬、ミシェリアは 耳を疑った。

だが、ヴィヴィアンの表情を見て、すぐに理解する。


王太子ミリスクレベン。


――彼が、自分を見ていた?


そう言われてみれば、 確かに視線を感じたような気がする。

だが、それは舞踏会ではよくあること。


けれど――

ヴィヴィアンの中では、それは 決して見過ごせることではなかった のだろう。


「……それで、独占したくなったの?」


ミシェリアが問いかけると、ヴィヴィアンは 無言のままコクリと頷く。


そして、そっと彼女を抱き寄せた。


「っ……」


彼の腕が、ぎゅっと 力強く 彼女を包み込む。

まるで、誰にも奪わせない と言わんばかりに。


(ヴィヴィ……。)


彼の鼓動が、彼女の胸に響く。

その速さが、彼の動揺を物語っていた。


ミシェリアは そっと彼の背を撫でながら、優しく微笑む。


「大丈夫よ。ヴィヴィから離れないわ。」


誓いを込めるように、彼の胸元に顔をうずめる。


それでも――ヴィヴィアンの不安は 消えなかった。


「それでも……こわいんだ。」


――初めて、ヴィヴィアンの口からこぼれた"恐怖"という言葉。


彼の声は、普段のどんな冷静な声よりも、ずっと切実だった。


(ヴィヴィ……。)


ミシェリアは、そっと目を伏せる。


彼は何をそんなに怖がっているのか。

王太子が自分に向ける視線が、何を意味しているのか。


……もしかして、ヴィヴィの刻印について何かわかったのかしら?


彼女は考え込む。


だが――少なくとも 今は、ヴィヴィアンを安心させることが優先だった。


「私はここにいるわ。」


彼の背を撫でる手に、ぎゅっと力を込める。


「だから、そんなに怖がらないで。」


ヴィヴィアンは、ほんの一瞬だけ 目を閉じて 深く息を整えた。

腕の中にあるミシェリアの温もりが、確かにここにある ことを実感するように。


「……あぁ。」


その声には、先ほどまでの焦燥と不安が 少しだけ和らいだ 気がした。


ミシェリアは そんな彼の手をそっと握る。


「ほら、戻りましょう。」


穏やかな微笑みを向けながら、彼の手を軽く引いた。


ヴィヴィアンは 静かに彼女を見つめ、コクリと頷く。


二人の指が絡まる瞬間、彼の握る手に わずかに力がこもる のを感じた。


(大丈夫よ、ヴィヴィ。)


ミシェリアは心の中でそう呟きながら、歩を進めた。


――再び、華やかな舞踏会の場へ。


◇◆◇◆◇


しかし、二人がテラスから戻るや否や、一斉に視線が集まった。


(やっぱり、注目されてるわね……。)


特に、先ほどの 6曲もの連続したダンス のせいで、すでに二人は 舞踏会の話題の中心 になっていた。


「ラヴェルノワ公爵夫人、本日はとてもお美しいですね。」


「ラヴェルノワ公爵、ご結婚されても相変わらずダンスがお上手ですな。」


次々と貴族たちが声をかけてくる。


ミシェリアは微笑みを浮かべながら、貴族としての完璧な礼儀 で挨拶を返していく。


ヴィヴィアンも 静かに佇みながら、冷静な貴族の顔を貫いていた。

だが、彼の指先には わずかに力がこもっている。


(まだ、気を張ってるのね。)


ミシェリアは彼の腕にそっと触れる。


「ヴィヴィ?」


「……なんだ?」


「少し、飲み物でも取りに行かない?」


さりげなく、彼をリラックスさせるように促す。


ヴィヴィアンは 一瞬だけ目を伏せて、微笑んだ。


「……あぁ。行こう。」


そうして二人は、貴族たちの間を優雅に歩きながら、ワイングラスの並ぶテーブルへと向かった。


(このまま、何事もなく夜が過ぎてくれるといいけれど――。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ